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中学受験情報アナリスト
立教大学 社会学部 社会学科
株式会社 四谷大塚 中学情報部 課長
岩崎 隆義 (いわさき たかよし)氏

2006年12月東進タイムズ掲載

受験生の保護者に「あのとき知っていれば」という後悔をさせないために、今、自分ができることを追求したい

クリエーティブに数字を扱う仕事

 アナリストというと、証券会社で株の動向を分析するような、機械的な仕事をイメージされるかもしれません。でも、実際の私の仕事はとてもアナログで地味な作業の連続です。

 主な仕事は、受験生のために入試で役立つ情報を発信するための、データ分析と資料作成です。中学入試の出願倍率速報や国私立中学校ガイド、公開模試の分析結果資料などを作成しています。

 それらの下地となるデータを作るために、初めに全国の中学の募集要項を集め、『学校基本調査報告書』『青少年白書』など政府の発行する統計資料から中学受験者人口など必要な数字を取捨選択し、情報収集を行うんです。

 公開模試の分析結果資料を例に、その作成の流れをご説明しましょう。

 現在、四谷大塚が主催する年4回の公開模試「合不合判定テスト」の受験生は2万人を超えています。この数字は、中学受験の三大模試※の中でも群を抜いていますので、成績データの正確さは非常に信頼されています。しかしその反面、及ぼす影響が大きいからこそ慎重にデータを分析しなければいけません。受験者の成績と、入試での合否結果と進学状況のデータを統合して、次年度の受験生に役立つためのわかりやすい資料を作成します。

 具体的には、「合不合判定テスト」の受験者成績データから、この中学なら今回の模試で偏差値がどのくらいの児童が合格できるのか、という「合格ライン」の設定をします。受験者数が多いので、ここで発表する合格ラインが実際の入試結果に大きく反映されることは珍しくありません。模試によって、偏差値70以上が100人出る回もあれば、200人出る回もあります。そうすると、その回ごとに合格ラインを変動させなければ正確な判定には成りえません。これまでの経験則と、統計資料から集めた確かな数字によって、その線引きをとことん精密に行うことが私の仕事です。

 しかし、そうして集めたデータをそのまま公表しても、完全な資料とはいえないんです。集めたデータを「誰が読んでもわかりやすいように、いかに工夫して見せるか」というところに腐心していますね。その「工夫」こそが、クリエーティビティそのものだと思っています。

 また、模試結果の資料を参考にするのは受験者の保護者ですから、保護者から私のところにたくさん電話で問い合わせがあるんです。泣きながら「こんな成績で受かるんでしょうか」という相談や、「この偏差値はどういうことだ」というお怒りの言葉を頂戴することもあります。こういった問い合わせに一件一件対応することも、次のデータ作成の貴重な参考資料になるんです。

 そのほかには、「合不合判定テスト」の試験会場に同伴してきた保護者対象に、子どもたちが試験を受けている間に、入試動向に関する説明会を行っています。全体の説明会後は個別相談の時間に移り、相談希望の保護者で毎回長蛇の列ができます。私にとってはここが、どんな成績の児童の保護者がどのような悩みを持っているのかを把握するための、貴重な情報収集の場なんです。

 千差万別の進路相談や問い合わせの電話を受けるというと、なかなかハードな仕事に聞こえるかもしれません。しかし、自分の「探究心」「知的好奇心」を満たすために、自分の知らないこと、わからないことは徹底的に調べてしまおうと思ってしまう性格のためか、全く苦にならないんですよ。

※中学受験の三大模試……(1)四谷大塚主催「合不合判定テスト」、(2)日能研主催「全国中学入試センター模擬試験」、(3)首都圏模試センター主催「統一合判」

「こういうふうに教わりたかった」

 教育の世界に憧れを抱いたきっかけは、高校生のころにあります。私の実家は美容院を営んでおり、そこで研修をしていた同年代のインターン生に国家試験の対策として数学を教えたことがあったんです。そうしたら、「すごくわかりやすい!今までこういうふうに教わりたかった」と誉めてもらえたことが印象に残っています。

 そこで人に教えることの喜びを知った私は、大学生になる前の春休みに家庭教師のアルバイトを始めました。最初は週1回1人だけ教えていたのが、3人になり6人、そして何人かまとめて私の自宅に集めて教えることもありました。この経験が、自分にも誰かに何かをしてあげられるという喜びを感じた原点ですね。

「保護者が子どもにしてあげられること」を探るために

 入社して間もないころ、こんなことがありました。前年度の模試受験データ作成のために、公開模試受験者の合否調査をしていたときのことです。一軒一軒受験者のお宅へ電話をかけていました。ガチャンと切られたり、お礼を言われたり、反応はさまざまでした。そのなかで、あるお母様が子どもが試験に不合格だったことに対し、自分を責めて泣き出してしまったのです。「努力した子どもも、面倒を見てくれた塾も悪くない。何もしてあげられなかった自分が悪い」と1時間も話してくださったのに、私は何もアドバイスできなかったんです。「はい」「そんなことはないんですよ」と繰り返すことしかできませんでした。

 そのときに何のフォローもできなかった、悔しい気持ちが今も仕事のベースにあります。無念な思いをしたお母様に対して、自分は何もしてあげられなかった。今の私にできることは、そんなお母様が一人でも少なくなるように「予防してあげることしかない」と思っています。私は教育事業に携わっていますが、子どもに対して授業をするのでもなく、悩みを聞いてあげることもありません。保護者に対して必要とされる情報を届け、手助けをすることで、少しでも子どもの合格につなげたい。ですから、「保護者が子どもにしてあげられること」を探るために、大脳生理学や生活習慣が子どもに及ぼす影響などに関する勉強や情報収集は、今でも怠ることがありません。

自分の探究心を満たすための仕事から、誰かのためになる仕事へ

 3年前のことです。試験会場で行われた個別相談で、あるお母様と出会いました。6年生の9月に、それまでトップクラスだった子どもが一つ下のレベルのクラスに下がってしまい、当初は「併願校に」と考えていた中学にもレベルが届いていない。子どもも全くやる気を失っているし、どうしたらいいのか、と相談を受けました。そのときに私は何と言ったか、今でも覚えています。

 「トップクラスにいた子どもですよ。自分が今置かれている状況に対して、お母様以上に不安を抱いているはずです」「その気持ちを汲んで、せめてお母様は温かく見守ってあげてください」と伝えました。

 子どものことを唯一信頼できるのは親です。保護者に信じてもらっているから、子どもは自信を持てるのです。思い込みでもいいから、子どもの自信のベースを保護者が作ってあげることが大切だと思ったんです。あとは、それを子ども自身の努力で実現することで、達成感や本当の自信がついてくるのです。

 翌年の2月中旬、そのお母様から電話がありました。「おかげさまで、志望校に合格しました!」と。それまでの仕事は、集めたデータをどう工夫して見せるかという自分の探究心を満たすことに一番の喜びを感じていましたが、「合格しました」とお礼の電話をいただいたときに「自分の仕事が、誰かのためになっているんだ」と、それまでとは違う喜びが生まれました。

 そんなときに改めて、大学3年のころにゼミの先生から言われた「人間はやったことより、やらなかったことを後悔する」という言葉を思い出しました。「あのときやっておけばよかった」という後悔の思いよりも、「挑戦したけれど失敗した」という経験のほうがずっと意味があることなんです。夢を持って中学受験に挑む保護者と子どもに対して少しでも役に立てるように、中学受験のデータを分析し、情報を誰にでもわかりやすく伝えること。それが「あのときに知っていれば、やっておけば」という後悔をしなくなることにつながると思うのです。そしていつか、「四谷大塚の人に中学受験について聞いてみよう」ではなく「四谷大塚の岩崎に中学受験について相談しよう」と言ってもらえるようになることが目標ですね。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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