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教材編集者
立教大学法学部法学科
株式会社 四谷大塚出版 執行役員 編集部部長
大矢 芙二雄 (おおや ふじお)氏

2007年01月東進タイムズ掲載

教材編集を通じて 何万人もの子どもと接することができる

一冊の教材を支える編集者たちの莫大なエネルギー

 編集者というと、雑誌や書籍の文章を編集するだけの仕事というイメージを持っている人が多いかもしれませんが、教材編集者は一つひとつの教材を作成するプロデューサーのような役割を担っています。

 具体的には、まずどんな内容の教材をつくるのかを、執筆者とともに会議を開いて企画立案します。執筆者は、子どもたちを実際に指導している四谷大塚の先生方です。そうした先生方に、内容に誤りがないかをチェックする校正を依頼するなど、さまざまな制作の進行管理を行います。野球に例えると、選手(執筆者や校正者)にサインを送るキャッチャーを想像してもらえるとわかりやすいかもしれません。

 私たちは教材編集の分野で、四谷大塚や提携塾で学ぶ小学生が使っている『予習シリーズ』に代表される教材を編集制作しています。

 定期的な仕事には、テキストの改訂作業があります。子どもたちは志望校に合格することを目標に学習しているので、入試問題の出題傾向が変わればテキストの内容も変えなくてはなりません。そのため定期的にメンテナンスをする必要があります。

 しかし、一口に改訂といってもかなりの時間と労力を要する仕事なんですよ。2004年に改訂が終了した『予習シリーズ』は約4年もかかりました。しかも、国語・算数・理科・社会の4教科の足並みをそろえて進めなければなりません。制作スケジュールはもちろん、子どもが学習しやすいように、教科ごとにテキストの個性をバラバラにするわけにはいきません。どの教科も表紙のイメージや大きさはもちろん、質の高さをそろえ、理科や社会では各単元の導入の仕方もそろえています。知的好奇心を引き出し、自ら学習に向かえるようにするために、その単元に関して子どもが身近に感じるような疑問や事柄を導入に持ってくるのです。たとえば理科の“ものの温まり方”という単元では、初めに「なぜ温泉玉子は黄身だけ固まるの?」という問いを提示します。子どもが興味を持って読み進めていくと、「白身と黄身では、黄身のほうが固まる温度が低い」→「水温を65度くらいに保てば、黄身が先に固まる」→「物質によって、ものの温まり方が違う」という事実が理解できるんです。同じように、社会の“日本と世界の貿易”という単元では「身の回りのメイドイン○○を探そう!」というところから学習をスタートさせます。

 もちろん学ぶ内容は各教科で異なりますが、子どもたちには4教科すべてを学んで総合的な力をつけてほしいのです。国語と算数だけを必死で勉強していた子どもよりも、理科や社会も学んでいた子どものほうが、中学入学後に伸びていく。実際にここ数年の中学入試では、国語・算数の2教科型から、理科と社会を含めた4教科を課す学校が増え、4教科をきっちりと学習してきた子どもを求めるようになってきています。ですから、そのためにも4教科の各編集者たちは力を合わせ、チームワークを発揮して教材をつくり上げていく必要があるんです。

良いチームが良い教材を生む

 社会科教材編集を経て、現在は各教科の編集者が円滑に仕事を進められるように編集部全体のマネジメントを行っています。国語・算数・理科・社会と教科別の編集チームがあり、彼らがやりがいを感じて働けるようにサポートするのが私の仕事です。

 例えば一つのテストをつくる際、その学年や時期に最も適する問題をつくるために、編集担当者と執筆する先生とで綿密な打ち合わせを行います。国語だけでも毎週6種類のテストを作成していますから、同時にいくつもの制作物を並行して作成しなければなりません。作成の過程で、子どもたちのレベルに合わない場合もあります。そんなとき、スムーズに問題が修正されるように問題点を指摘したり、編集者と先生がうまく意思疎通できるように橋渡しをしたりもします。

 より良い教材を作るためには、編集者や先生方が知恵を出し合い、協力しなければなりません。そして最高のチームワークが発揮できたときに、より質の高い教材が生まれます。私は、そんな教材ができるように編集者たちと一緒になって考えながら、日々業務に当たっています。

教材編集者に求められる「3つのポイント」

 教材を通して子どもたちに学習内容を伝える以上、たとえ一文字の誤りでも許されません。ですから何よりも必要なのは、緻密さと正確さといえます。例えば、算数では数字が一カ所違うだけで計算が全部合わなくなってしまいますし、漢字にしても「大」と「犬」では全く異なる意味になってしまいますよね。ミスがなくて当たり前の世界なので、日々の膨大な仕事でも単純な誤りを見落とさない緻密さが必要です。

 二つめはスケジュール管理能力です。志望校合格を到達点に定めて、子どもたちにはいつまでにどの単元を終えてほしいかが決まっているので、教材の完成日は絶対厳守です。締切日から逆算して計画を組めるようなスケジュール管理能力が求められます。

 三つめは、執筆者や校正者、必要に応じてデザイナーなど、多くの人に仕事を依頼してそれぞれに仕事をしてもらう力(=人を動かす力)が求められます。ですから舞台に立つ役者というよりも、縁の下の力持ちとして全体を演出していくような、総合的に物事を捉える力が必要になります。

教材の向こうの子どもたちと向き合う姿勢

 私たちは、子どもたちに直接指導することはありませんが、教材を通して一所懸命に学習する子どもたちを想像しながら仕事をしています。子どもたちにとって志望校合格は大きな目標へ向かう通過点であり、ゴールだとは思っていません。私たちのつくる教材を通して〝自ら学ぶ能力?、そして“将来を設計する力”を身につけてほしいと考えています。

 教育に興味を持ったきっかけのひとつは、大学時代に学習塾で小学生や中学生を教えていた経験にあります。その際に気づいたことは、教材の持つ影響力は絶大であるということ。自分一人で教えられる生徒の数は限られていますが、教材であれば全国の子どもたちにメッセージを伝えることが可能なんです。

 未来の日本社会を担う子どもたちに、よりよい教材を提供して、考える力を身につけてほしい。教材だからこそ、一対一ではなく毎年毎年何万人もの子どもたちと接することができる。そこに大きなやりがいを感じています。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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