『フォレスト・ガンプ 一期一会』『ローマの休日』といった名作や、『ミッション:インポッシブル』『マトリックス』といったアクション大作を鑑賞しながら英語学習ができるパソコンソフト「超字幕」。通常のDVDプレイヤーではできない「英語と日本語の同時表示」や、0.6倍速.再生してくれる「ゆっくり再生」機能、あるいは聞き逃してしまった直前のフレーズをすぐに再生してくれる「リピート」機能など、この上なく便利な機能が搭載されている。英語学習者のかゆいところに手が届くソフトである。
「英語学習の方法は人それぞれです。リスニング重視という人もいれば、ひたすら書いて覚えたいという人もいます。自分にとっては使いやすい機能でも、誰もがそう感じるとは限りません。ですから開発にあたって、どんな機能があれば使いやすいと思うかを多くの人にお聞きしました」
そう語るのは、「超字幕」の製品企画に携わってきた柳沼友香だ。その仕事は「超字幕」に搭載する機能の検討から、英語学習に向いている映画の選定、劇中で使われている英語のチェック、製品開発のスケジュール管理、製品パッケージや製品紹介のWEBページ、販促物のデザイン検討など、多岐に渡る。製品に関わるほとんどすべてをチェックしているといっていい。
柳沼が「超字幕」のプロジェクトに参加したのは昨年、入社3年目のことである。若手ではあるものの、柳沼は提携先である「パラマウントデジタルエンターテイメント」(現・パラマウント・ジャパン)との交渉やプログラマーとの意見のすり合わせなど、プロジェクトの「要」として大きな責務を果たしてきたのだ。
「当時の自分の能力を100とすると、130ぐらいの成果を求められる仕事でした」
プロジェクトメンバーに抜擢されたときのことを柳沼はそう述懐する。「超字幕」は、映画と英語学習を融合させるという、まったく新しいタイプのソフトウェア。しかも同時に17タイトルを発売するというのは、社内でも前代未聞の試みだった。さらに、パートナーである映画会社との綿密な打ち合わせも必要となる。何もかもが初の取り組みで、困難が予想された。しかも、チームメンバーは自分よりもキャリアが上の先輩ばかり。しかし、柳沼はむしろ期待に胸を躍らせる。
「もともと英語に関わる仕事をしたいと思っていました。それに映画も好きでしたから、任せてもらえて嬉しいという気持ちのほうが大きかったです」
だが、実際にプロジェクトが動き始めると、柳沼は大きな壁に何度も突き当たる。責任感が人一倍強い柳沼は、誰にも甘えず自分で解決しようと孤軍奮闘していた。しかし状況は一向に変わらない。
そんな苦境に明るい光が差し込んだのは、柳沼のある心がけがきっかけだった。
「自分から積極的にプロジェクトメンバーや関係各所に話を聞きに行くようにしたんです。そうすると、周りの人からどんどん助けてもらえるようになって、あれほど悩んでいた問題が驚くほどスピーディーに解決していきました」
何か大きなことを成し遂げようとしているときに、たった一人で頑張る必要はない。
こうして柳沼は、チームプレイの大切さを学んでいった。
大学の英米文学科を卒業した柳沼は、高校時代から英語に関わる仕事に就きたいと考えていた。高校時代にはオーストラリア、大学在学中にはロンドンで留学生活を送り、言葉の壁を越えてコミュニケーションすることの楽しさを学んだ。
ソースネクストを志望したのも英語を活かすことができる職場だったからだ。アメリカ、インド、ドイツ、韓国など、海外の取引先企業は数多い。商談やメールなどで英語を使うシーンもしばしばだ。「超字幕」に携わる前は、海外で開かれる展示会に出展して自社製品のPRを行ったり、逆に海外の優れた技術を探しに行ったりしたこともある。柳沼の英語力は、ビジネスにおけるコミュニケーションにおいてもほとんど困らないレベルである。それでも英語の勉強は欠かさないと柳沼は言う。
「コンピューターの技術用語には、日本語でも理解できないような難しい単語を用いる場合があります。ですから、海外のサイトなどを定期的にチェックしたり、英字新聞を読んだりするように心がけています」
そうした自らの英語学習の経験は、もちろん「超字幕」の開発にも活かされている。学習者の目線で、プログラマーに提案できるのが柳沼の強みなのである。
例えば「超字幕」には「超連続リスニング」という機能がある。一部、対応していないタイトルはあるが、劇中のほぼすべてのセリフが穴埋め形式のリスニング学習ゲームになるというものだ。この機能の場合、単純にすべてのセリフを穴埋めクイズにしてしまうほうが開発の上での手間は少なくて済む。しかし、それでは地名や人名といった固有名詞までも、ユーザーに答えさせるケースが出てきてしまう。
「主語の"I"などを穴埋め問題にしても、当たり前すぎて学習者にとってあまりメリットがありません。むしろ、不便になってしまいます。そうした場合、大文字で始まる単語は出題から省くという条件をつけたりするわけです」
こうした細かな気配りを積み重ねることによって「超字幕」は、より学習効果の高いソフトに洗練されていったのである。
「超字幕」は2010年11月現在、およそ170タイトルが発売されている。書店や家電量販店などの店頭で購入できるパッケージ版と専用サイトから直接購入するダウンロード版(ともにWindows専用)が販売されており、英語学習ソフトとしてのブランドを着実に築きつつある。だが、そこに至るまでにはさまざまな試行錯誤があった。
どうしたら「超字幕」をもっとたくさんのお客様に使ってもらえるか? そんな中で柳沼たちは、ダウンロード版の価格を調整し、いくらで販売すると、よく売れるか市場調査を行った。
「キャンペーン期間限定で価格を下げるなど、いろいろ実験してみました。すると、売上が跳ね上がりました。そこで店頭でのパッケージ版にも応用してみると、こちらも2倍以上売上が伸びました」
もちろん、安くすればいいというものではない。キャンペーンをきっかけにして、潜在的なニーズを確認できたことのほうが重要なのだ。
現在の柳沼の目標は「超字幕」の知名度をさらに上げることである。そうすれば、もっと売上を伸ばすことができると同時に、より多くの人に英語を学んでもらえると確信している。企画段階から携わってきただけに、「超字幕」の優れた商品力には、絶対の自信を持っているからだ。
社会人生活4年目。柳沼は持ち前の好奇心と行動力で、日々スキルを磨き続けている。そんな柳沼に、仕事をする上で求められる力は何かを問うてみた。
「どんなことでも楽しんで取り組める力でしょうか。ときには難しい仕事を任されたりすることもあります。そんな時でも自分なりの目標や楽しみを見つけて、前向きに取り組めるかどうかが、自分自身の成長にもつながっていくのだと思います」
(文中敬称略)