アナウンサーというと「話す」仕事だというイメージが強いのですが、実際は「情報を伝える」仕事なのです。ですから、まず第一に情報の発信者の声にじっくり耳を澄まして、相手がどのようなことを、なぜ伝えようとしているのか、その「想い」を想像することが大切です。アナウンサーは、実は想像力が求められる職業でもあるんですよ。
二番目に大切なことは、テレビを見ている視聴者の皆さんの声に耳を澄ますこと。私たちはいつも「視聴者は何を知りたいのだろうか」「自分が話したことを理解してくれるだろうか」と考えながら番組を進行しています。
三番目は、仲間の声に耳を澄ますこと。テレビの仕事は、実際に番組が放送されるまで、カメラマンや音声、照明、ナレーター、ディレクター、映像編集など、非常に多くの人間が関わる“共同作業”です。音や映像をいろいろな場所から集めてきて、短い時間に編集してわかりやすく放送することは、各スタッフの連携なしにはできません。だからこそ、スタッフがどういう考えを抱いているかに常に注意を配り、よりよいチームワークを築くことが大切なんです。
私は「NHKニュースおはよう日本」という朝のニュース番組を7年間担当していました。生放送では、限られた時間内でいろいろなことを行わなくてはいけません。画面に映る穏やかな表情とは裏腹に、焦りで気持ちを平静に保てず、集中力が欠けてしまうこともあります。
オリンピック選手と同じくらい、アナウンサーにも本番での冷静さと平常心が必要です。そうでないと集中力が散漫になって、ゲストの話がちゃんと聞けなかったり、時間ばかり気になって焦ったりと、マイナス方向にずるずる引きずられてしまいます。
私は常に、自分の心の様子を把握するように心がけています。イライラしたり注意力が欠けていると気づいたら、ゆっくり深呼吸をしたり、にっこりと微笑んでみたり、ストレッチをします。すると次第に緊張がほぐれてリラックスできます。
高校生の皆さんにとっての勉強も、同じことだと思います。集中できないときは、平常心を欠く原因がどこかにあるということ。そんなときは勉強の手を休め、自分の状況をよく見つめ直し、ゆっくり深呼吸してみてください。きっと少し気が楽になるはずですよ。
実は私は子どもの頃から、極度のあがり症でした。そんな私がどうしてアナウンサーを志したかというと、子どもの私にとってテレビの中の人々はまさに「憧れの存在」だったからです。娯 楽に乏しく、テレビが貴重品だった時代、どのテレビ番組もとても楽しく、まるで夢のような世界でした。
高校時代にアポロ宇宙船の月面着陸、大学時代にあさま山荘事件を生中継で観たことも大きかったですね。現場をお茶の間に届けるテレビの力の凄さに圧倒され、ますますアナウンサーに対して憧れが強まったのをよく覚えています。
NHKに入局してから、31年。これまで「紅白歌合戦」の総合司会(2001年・2002年)や、ニュース番組のキャスター、中国の長江を600キロメートル下る生中継など、アナウンサーとしてさまざまな経験をしてきました。いまだに緊張してのどがカラカラになることもありますが(笑)、毎日が新しい挑戦の連続ですね。
私たちNHKのアナウンサーは、社会が必要としている情報を正確にお伝えする義務と責任があり、そのことが存在意義でもあります。人生を振り返って、やりがいのある職業に就けてよかったと、心から思っています。