全国172の大学情報を掲載!志望校選びに役立つ情報・卒業生や現役大学生の“ナマの声”満載!

大学教授
京都大学 工学部建築学科
立命館大学 理工学部 教授
大窪 健之 (おおくぼ たけゆき)氏

2008年11月東進タイムズ掲載

個々の建造物ではなく地域全体を守る

私の専門の「文化遺産防災学」は、文化遺産やそれを取り巻く歴史都市を災害から守るための方法を考え、実践する学問です。“文化首都”を掲げる京都には木造の歴史的建造物や古い町並みが数多く残っていますが、ひとたび大地震が起これば倒壊した建物によって道がふさがれ、同時多発火災により消火活動が遅れ、一気に焼失してしまう危険性をはらんでいます。だからと言って、簡単に道幅を拡大したり、木造建築をコンクリートにしたりする訳にもいきません。貴重な文化的価値を損なうことになるからです。

そこで辿り着いた結論が個々の文化財という「点」を守るのではなく、地域全体である「面」を守るという発想です。私が所属しているNPO団体「災害から文化財を守る会」では、2004年に内閣府の委員会を通じて、文化財がある地域一帯に断水しない自然水源を活用した、耐震性のある配水管や市民消火設備などを設置することを提言しました。

例えば世界遺産・清水寺などの文化財が集まる京都市産寧坂地区では、京都市が主体となって2006年から耐震性配水管を約2キロにわたり整備する計画をスタートさせ、水源として消防車12台に同時給水できる耐震型防火水槽を地区内の公園地下に設置しました。

また、火事による被害を最小限に抑えるには初期消火が重要となり、誰もが素早く対応できる環境が必要不可欠です。そこで私たちは、昔から伝わる歴史的手法に注目しています。土地の自然に根差した伝統的な水利(水路や井戸水など)を蘇らせることができれば、いざというとき、子どもからお年寄り、あるいは土地勘のない観光客であっても自分の判断で消火活動を実践することができます。

文化遺産を守ることは、単に建造物を残すことでありません。その時代に生きた人々の心を後世につなぐことであり、それは現代を生きる私たちの生活を豊かにしてくれることでもあると思っています。

大きな転機となった阪神・淡路大震災

私の研究のスタートは都市デザインでした。「美しい建築表現とは、調和のとれた都市景観にある」という考えのもと、米国と日本の都市設計手法の比較研究や滋賀県守山市の景観形成基本計画の立案、廃棄物処理施設に関する都市計画的配置及び施設デザイン調査などに携わってきました。

しかし、みんなに喜ばれる街をつくりたいと、多くの人々の意見に耳を傾ければ傾けるほど何が正解かわからなくなり、壁にぶち当たってしまったのです。

そんなとき、6千人以上の方々が亡くなった阪神・淡路大震災が起きたのです。少しでも知人や友人の力になりたくて、私も自ら水や食料を積め込んだリュックを背負い、被災地に向かいました。そのときに見た光景を私は一生忘れないでしょう。私の知る美しい神戸はどこにもありませんでした。長い年月をかけて築き上げてきた街が一瞬で消えていく。その残酷な現実を目の当たりしたとき、私の心は決まりました。「街づくりの核となるのは安全である。これからは人々が長く住める街づくりに力を尽くしたい」と。

実はこの方向転換は仕事の壁を乗り越える原動力にもなりました。防災に必要な水資源の復活は、その土地の自然環境・水と緑を再生させることでもあります。やがて私は安全の追求が「美しい街づくり」につながることを確信するようになりました。

工学は社会に貢献するためにあり、優れた防災計画も実行されなければ意味がないと思っています。計画づくりには地域住民を対象としたワークショップの開催は欠かせません。特大地図を使い、地盤調査や出火率データをもとに、どれくらいの規模の地震でどのようなことが起こり得るかを住民に具体的にイメージしてもらうのです。このような過程を経ることで住民の方々は「文化遺産を守ることは自分たちの暮らしを守ること」であることを理解してくれるようになります。私たちの仕事はほかの科学者や各分野の専門家だけでなく、そこに暮らす人々との共同作業でもあるのです。

私の人生に大きな影響を与えた3人の人物

改めて振り返ってみると現在の仕事に就いたきっかけは、父の存在が大きいと思います。絵を描く父の影響で私も水彩画に興味を持つようになりました。休日は近くの公園や川べりで、並んで絵を描くのが楽しみでしたね。白い画用紙が色彩豊かな一枚の絵に仕上がっていく過程を体験するうちに、創造への興味が自然と芽生えたのでしょう。高校になると「将来はモノづくりに関わる仕事をしたい」と思うようになり、工学部建築学科に進学しました。また父は施工や塗装の会社を経営していたので、みんなで協力して何かを作り上げることにも魅力を感じていました。意図した訳ではありませんが、それもまた共通していて、不思議な縁を感じます。

大学時代、建築事務所のアルバイトで出会った二人の一流建築家の先生にも刺激を受けました。一人目は京都ステーションビルや札幌ドームを手掛けた原廣司先生。ちょうど梅田スカイビルの建築が進行している最中でまさに猫の手も借りたいとき。全くの未経験である私にも具体的な設計を決めるための巨大模型の制作などの重要な仕事を任されました。外壁や内装の色を決定する作業では、約300種類の色番号をすべて覚えてしまったほどです。幅広く意見を取り入れながら進めていく先生なので、議論を重ねる過程で自分の考えを的確に伝える大切さや難しさを学びました。

もう一人はモダニズム建築の大家・岸和郎先生で、アーティスト肌である先生の集中力はまさに神がかりでした。シンプルさをとことん追求し、ぎりぎりまで試行錯誤を重ね、最終段階では猛スピードで仕上げる仕事ぶりには、ただただ圧倒されるばかりでした。

人生は「人との出会い」で決まるといっても過言ではありません。愛情あふれる父や素晴らしい建築家の先生に導かれ、自分の好きな道を歩むことができた私はとても幸運だったと思います。

世界の文化遺産に応用できる 防災計画を構築したい

私の仕事は、研究と教育活動という二つの柱があります。立命館大学の学生はとてもポテンシャルが高いので、講義では体系的知識を与えるだけでなく、具体例を多く用いて将来の道を定められるような環境を提供できればいいなと思っています。

「文化遺産防災学」は、現在文部科学省の「グローバルCOEプログラム」に採択され、ユネスコなどの国際機関からも期待されている研究です。まずは2012年を目安に確固たる結果を残し、ゆくゆくは「文化遺産防災対策パッケージ」として世界各地の世界遺産に応用できるようにすることが目標です。

私は受験を通じて自分を大きく成長させることができました。本気になれなかった自分を変えてくれたのは、予備校で出会った仲間たちでした。それぞれプレッシャーと戦いながら志望校合格を目指し、共に努力してきた彼らは生涯の友となり、今でもその交流は絶えません。高校生の皆さんは、まだ今はわからないかもしれませんが、勉強に打ち込める環境があるというのは凄く恵まれていることです。皆さんも受験というチャンスを大いに活かし、豊かな人生への一歩を踏み出してください。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
京都大学に関連した職業はこちら!
京都大学法学部 卒業
裁判官
加藤 雅寛 氏
京都大学 農学部 卒業
商社
塩見 智也 氏
京都大学 経済学部 卒業
編集者
山川 龍雄 氏

	
教育・福祉・栄養に関連した職業はこちら!
立命館大学 文学部 東洋史専攻 卒業
学校運営
今村 正治 氏
東京大学 経済学部 卒業
学校運営
篠崎 高雅 氏
立教大学 社会学部 社会学科 卒業
中学受験情報アナリスト
岩崎 隆義 氏
立教大学法学部法学科 卒業
教材編集者
大矢 芙二雄 氏
國學院大学文学部文学科 卒業
教材編集者
喜多井 稔 氏
UCLA(University of California, Los Angeles) World Arts and Cultures 卒業
教育エンターテインメント
長岡 学 氏