全国172の大学情報を掲載!志望校選びに役立つ情報・卒業生や現役大学生の“ナマの声”満載!

研究者
東京工業大学 工学部
東京工業大学 工学部 高分子工学科 准教授
戸木田 雅利 (ときた まさとし)氏

2011年05月東進タイムズ掲載

高分子の研究を究めて 最先端の材料技術を躍進させる!

ペットボトルや化粧品も!私たちの生活に密着する高分子

「高分子」とは、「モノマー(単量体)」と呼ばれる通常の大きさの分子が、共有結合によってつながった巨大な分子のことである。プラスチックやゴムといったものがよく知られているが、身近なところでは、衣類やペットボトル、パソコンのディスプレイ、化粧品などに使われるなど、枚挙にいとまがない。

例えばチューインガムは、ポリ酢酸という高分子が主成分だ。パッケージから出したばかりのガムは固いが、口の中ではやわらかくなる。だが噛み終わってから外に出して、しばらくするとまた固くなる。これもまた「ガラス転移」という高分子の特徴的な現象である。そもそも私たちの体を形づくるタンパク質やDNAなども高分子なのである。

「高分子の研究というのは案外新しいんです。皆さんが知っている高分子の姿、つまり長い鎖状の分子であるということがわかったのは、1926年にドイツのヘルマン・シュタウディンガーという科学者が高分子説を唱えてからです。もちろん高分子はそれよりもずっと前から繊維やゴムとして使われていましたけどね。」

そう語るのは、東京工業大学工学部高分子工学科准教授の戸木田雅利である。東京工業大学(東工大)高分子工学科は、1962年の学科創設以来、高分子の合成、構造・物性から、その機能にいたるまで幅広い分野を総合的に研究している世界屈指の研究組織である。戸木田はその第一線で活躍する研究者だ。

「私の研究は、高分子が本来持っている性質や機能を発現させるために、高分子の物性を構造に基づいて解明する基礎研究です。高分子がどのようなものかを知るために、液晶※の場を利用して、高分子のふるまいを観察しています。」

実は高分子を一方向に整然と並べることは、たやすいことではない。そこで戸木田が試みているのが、液晶を「高分子を観察するための置き場」とすることだ。

基本的に液晶は、ひとつの方向に向かって分子が並んでいる。さらに、液体と固体の中間状態であるため「流れる」という性質を併せ持っている。通常、液体となった高分子は絡みあったスパゲティのような状態にあるのだが、液晶と重合させることで、分子の方向を制御することができる。

ナノテクノロジーという極小世界の話であるが、「ナノサイズにおいて、構造をきれいに制御できるか」がこれからの課題になってくると、戸木田は言う。高分子の場合、数十.数百ナノメートルの大きさにまでに集合させることで、新しい医療材料や光学材料の素材となる。

確実に高分子の特性や機能を掴むためには、戸木田らが行うナノサイズ段階での研究がきわめて重要なのだ。

※液晶とは、液体と結晶の中間にある物質の状態である。棒状の分子が1つの方向を向いていて、結晶のように性質が方向によって異なりながら、液体のように流れる。分子の向きを変えようとすると元に戻ろうとする弾性も示す。これらの性質を巧みに利用したのが液晶ディスプレイだ。

物足りなさを感じていた駆け出し時代 進むべき道を与えてくれた恩師の存在

学部生の頃からずっと高分子の研究に携わってきたという戸木田。「古いタイプの研究者なんですよね」と笑うが、意外にも高校生の頃は、化学が得意ではなかったという。だが高校生の戸木田は、わからないからこそ「化学を勉強してみよう」と奮い立った。選んだのは、東工大の第3類(応用化学系)。そこで戸木田は、高分子に惹かれていく。

「我々の生活にとって重要で、かつ、形になるもの。手に取って、何かできるようなものにチャレンジしたいと思ったんです。」

実際に取り組んでみると、戸木田は高分子研究で扱う時間や長さのスケールの幅広さに魅了された。例えば、モノマーひとつの大きさは、0.1nm(ナノメートル)だが、それがつながって分子量10万の高分子になると、分子の長さは100nmサイズ。その凝集構造となると、100000nmサイズにまで跳ね上がる。ナノレベルから、光学顕微鏡で観察することができるサイズ、あるいは、もっと大きなメーターサイズまで、高分子のスケールは実に幅広い。

しかし当時、液晶高分子の研究は、どちらかといえば下火になりつつあった。液晶高分子の合成を試みる研究者はいるものの、彼らの目的は合成そのものであり、できあがった液晶高分子を、さらに突き詰めて研究するものは少なかった。さらに、高分子を液晶にするためには、200度以上の高温にまで熱を加えなければならない。そうなると、酸化や変性を免れず、でき上がった液晶の質も落ちてしまうといった事情があった。戸木田はそんな状況に、高分子の研究者として物足りなさを感じていた。

そんな戸木田に声をかけてくれたのが、恩師である渡辺順次だ。渡辺は日本における液晶高分子研究の第一人者である。

当時、学生だった戸木田は、自分で作った液晶高分子を研究室にある装置すべてで測定するようにと、渡辺から指示を受ける。ちょうど研究室には、酸化や変性もしない温度で液晶になるポリエステルがあり、高分子の基礎物性を測定できる装置が次々と導入された時期でもあった。戸木田は、その装置で液晶高分子の基礎物性を測定し始める。

そこで戸木田は気づいた。ポリエステルなどの高分子の測定データは教科書に載っている。だが、液晶性のポリエステルのデータはどこにもない。しかも、液晶であれば分子を一方向に並べることができる。つまり、縦方向に並べたときと、横方向に並べたときで、物性値が違ってくる。やり方によっては、さまざまな研究の可能性が無限に広がる。

「液晶の眼鏡を通じて、高分子を見ることはできないか?」

戸木田の研究者としての方向性が定まった瞬間だった。

苦難の研究を支えてくれたもの 研究者の立場から学生に送りたいメッセージとは?

もちろん、それ以降も試行錯誤の連続だった。修士課程一年のとき、戸木田は、液晶の中にある高分子の鎖の形を捉えたいと考えた。だが、直接的に観察することは難しい。そこで戸木田は、X線散乱法という手法を選択する。測定に長い時間がかかるため、液晶状態にあるポリエステルを急冷して固化した試料を測定するというやり方で研究を進めるものの、X線散乱では全く観察できる兆しがない。

液晶状態で長い鎖状の分子は一方向を向こうとする一方で、液体状態と同じように多様な形態をとろうとする。その結果、高分子はヘアピン状に折りたたまれる。研究をスタートしてから半年後、戸木田はようやくその姿を捉えることに成功した。熱処理条件を変えることで、液晶状態における高分子鎖の形態を示すことができたのである。

それまでの道のりを支えてくれたのは、指導教員や先輩たちからの「絶対に見つかる」という声援だった。成果を得たあと、戸木田は、一気に論文を書き上げた。

「あのときの経験がなければ、私は今、研究者を続けていなかったかもしれません。高次構造と呼ばれる液晶高分子のかたちがわかったからこそ、ではこの高分子をきれいに並べるにはどうしたらよいかという現在のテーマに結びついていったわけです。」

戸木田は今、学生を指導する立場でもある。研究者として後進の育成にも余念がないが、その際に気をつけているのは「先入観を与えない」ことだという。

学生自身が自分で考えて先入観を持って臨むのはかまわない。だが、指導する側が余計な先入観を与えてしまうと、それにそぐわない結果が出たときに、学生は自分が間違っていると思い込んでしまい、重要な実験事実を見落とす恐れがある。

「大事なのは自分の視点と想像力を持つこと。そうすれば、結果が思い通りにならなくても、次のステップに進むことができます。」

研究は地味な作業の積み重ねだ。だが、一つひとつの実験の成果が、次へのモチベーションにつながる大事な糧となる。その上で戸木田は、学生たちに「新しいサイエンスを開拓する喜び」を感じ取ってほしいと強調する。

「私を指導してくれた先生が、私に教えてくれたことですからね。今度は私が、次の学生たちに与えていきたい。」

現在の目標を尋ねると、戸木田はきっぱりとそう答えた。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。

	
自動車・機械・開発に関連した職業はこちら!
北海道大学 理学部 化学第二学科(現・化学科) 卒業
パッケージ開発
栄 賢治 氏
日本大学 理工学部 建築学科 卒業
意匠建築士
外山 博文 氏
慶應義塾大学 文学部 卒業
自動車
鳥羽 真澄 氏
上智大学 外国語学部 フランス語学科 卒業
自動車
小林 実帆子 氏
長岡技術科学大学 工学部 卒業
自動車
水谷 諭 氏
千葉大学大学院 自然科学研究科修了 卒業
自動車
大杉 優幸 氏