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研究者
大阪大学 理学部
北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 教授 英サザンプトン大学 教授
水田 博 (みずた ひろし)氏

2011年07月東進タイムズ掲載

大革新を導く発想の転換! 「ムーアの法則」を超える高機能デバイス

ゴードン・ムーアの未来予測を超える より高機能なデバイスの誕生秘話

「ムーアの法則」という言葉を聞いたことがあるだろうか。米インテル社の共同創業者であるゴードン・ムーアが1965年に提唱した将来予測である。半導体チップに集積されるトランジスタ(半導体素子)の数は、「18~24カ月ごとに倍増する」というものだ。例えば、この法則に乗っ取れば、パソコンの中心的処理装置であるCPUの性能が18カ月で2倍に伸びるというわけだ。このムーアの言葉通り、半導体技術は半世紀にわたって目覚ましい発展を遂げてきた。ナノテクノロジーが進歩した現在、半導体チップの大きさは、45nmや30nmという極小サイズにまで進行しているのである。

しかし一方で、「ムーアの法則」に基づく単純な微細化だけでは限界があるという指摘も以前から存在した。物理的な限界と同時に、小さくなればなるほど製造にかかる費用が莫大になるため、採算が合わなくなると目されているのだ。

「もちろん、現在でもムーアの法則に基づいた微細化の流れはあります。しかし20年ほど前から、その限界は指摘されていました。ですから世界中で、小ささだけにとらわれずに新しい機能を持った半導体デバイスの研究開発も盛んに進められるようになったのです」

そう語るのは、北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイエンス研究科で教授を務める水田博だ。水田が取り組んでいるのは、半導体デバイスの中に、さらに小さいナノサイズの動く可動構造を組み込み、これまでにない性能を持った複合機能デバイスを作り出すことである。水田のデバイスは小さいだけでなく、なんと"動く"のだ。

身近な例を挙げてみると、フラッシュメモリという半導体がある。パソコンや携帯電話などのデータを記録する装置として普及しているが、小型化が進むと情報が漏れてしまうという問題点があった。そこで考え出された方法が、フラッシュメモリ内の電極の一つを動かして情報漏れを防ぐアイデアである。記憶の書き込み、あるいは消去時のみ電極を動かし、それ以外のときは空気の層で絶縁しておく。こうすれば、より小型化が進んでも情報が逃げなくなるのだ。

「従来の半導体に異種技術を融合させる。こうした取り組みは"More than Moore"(モア ザンムーア)と呼ばれています」。水田は、ムーアの法則の先を見据えたフロントランナーであるのだ。

物理のテストでまさかの「0点」! 猛勉強の末に見えたこと

現在は研究の最先端を走る水田だが、高校生の頃は文系志望だったという。それが理系に転じたのは高2の春。物理のテストで0点を取ってしまったのがきっかけだった。勉強していなかったとはいえ、あまりに情けない点数だ。「0点のまま文系に進むことが癪だった」と感じた水田は、それから3カ月の間猛勉強をした。教科書を復習し、ノートを作り直し、改めて物理と向き合う日々。そんな中で水田は、あることに気がつく。

「高校で習う物理の基本法則は数えるほどしかない。それさえ理解しておけば、ほぼすべてが解ける」

すると不思議なことに、だんだん物理が楽しくなってきたという。とりわけ物理はサイエンスの根幹を担う学問である。水田はこのとき初めて、自分と物理との相性の良さに気がついた。

「0点じゃなくて、50点ぐらい取っていたら、まあいいかと思って、そのまま文系に進んでいたかもしれませんね」

水田にとっては「0点」が生んだ、思わぬ人生の岐路だった。そして大学進学後も物理に没頭。とりわけ「量子力学」に魅了される。

量子力学は、原子などのミクロな世界の力学を扱う。すべてのものが「粒」であると同時に「波」でもある「波動と粒子の二重性」を持つという不可思議な理論だ。だがその反面、実際の実験データなどから、原子スケールの現象を見事に説明することができる。

「不思議なものでもあるけれど、実用的でもある。その二面性がおもしろかった」

現に、量子力学は半導体デバイスの開発に欠かせない。現在のナノテクノロジーの発展に大きく寄与した学問である。学生時代の水田は、朝永振一郎、シッフ、メシアといった物理学者たちの名著を読みふけった。図書館にこもり、講義でわからなかったことを、時間を忘れて考え続ける毎日だった。気がつけば、夜になっていたということもしばしばだったという。

転機となったイギリス出向 基礎研究と産業界で求められる研究の接点が見えた

大学時代は「就職活動をする時間も惜しかった」と振り返るほどに基礎理論の研究にのめり込んだ水田は、大学卒業後、日立製作所に入社する。研究職とはいえ、会社では大学時代のように基礎研究に没頭することはもうないだろう……。そう考えていた水田だったが、会社から与えられた仕事は実に意外なテーマだった。

「量子力学を使って何かおもしろいデバイスを作れないか?」

そこで水田は、量子力学を用いて新しい半導体の超格子構造( 数ナノメートル厚の半導体積層構造)を設計。従来のトランジスタには見られなかった特性を見い出すことに成功する。だが正直「半信半疑」だった。理論上では計算できても、それを実際に作ることができるかはまた別の話なのだ。

「それだけに、結果が出たときには感激しましたね」

そして入社4年目。水田に転機が訪れる。英国の日立ケンブリッジ研究所の開設に伴い、立ち上げスタッフとして出向を命じられたのだ。だが、実際に赴任してみると、何もない敷地に測量棒が一本立っているだけという状態。研究所の建設はこれからという段階で、電話やパソコン、実験機器なども自ら手配しなければならない。もちろん、英語を使って仕事をしたこともない。

日本経済新聞の一面を飾った研究成果 成功と失敗を重ね、世界のステージへ

それから6年後。2年の出向期間を終えていったんは帰国した水田だったが、再びケンブリッジの土を踏むこととなる。駆け出しの研究者時代とは違い、今回の赴任は「所長」という肩書のもとであった。それだけにプレッシャーも大きい。スタートから10年余りを経て、何らかの成果を求められる時期でもあった。

そのときに携わったのが、新しい少数電子メモリデバイスの開発だ。この成功に、研究所の命運がかかっていた。それゆえに基本原理が確立したときには、日英で大々的なプレスリリースを打った。一日中記者会見に忙殺された水田。翌日の日本経済新聞には「記憶性能、DRAMの2倍低コストの新メモリー」の見出しが躍った。英「フィナンシャル・タイムズ」にも一面トップで報じられ、「サイエンス」や「エコノミスト」など三十のメディアで取り上げられるほどの反響があった。

しかし、このメモリデバイスは製品化されることはなかった。不運にも開発の最終段階で日本の半導体産業が深刻な不況期に陥ったからだ。やがて研究所自体も、半導体の基礎研究から別の分野へと舵を切り直すこととなる。水田は迷った。新しい分野へと自分も進むべきか、それとも、会社を飛び出してこれまでの自分の研究を発展させていくか。

水田が出した結論は、後者だった。会社の幹部や同僚たちも、水田の決心を尊重してくれた。

退職後、水田は東工大に招かれる。その後、日立ケンブリッジ時代につながりのあった英サザンプトン大学の教授となり、三度目のイギリス生活をスタートさせた。2011年からは北陸先端科学技術大学院大学との兼務が決まり、若い頃からの夢であった日英国際共同研究を実現すべく、両大学の間を忙しく行き交う日々を送っている。NEMS複合機能デバイスに加え、最近では電子一個一個のスピンを制御して動作する量子コンピュータの分野でも成果をあげている。

そんな水田に、民間企業での研究と大学での研究との違いを問うと「アカデミック・フリーダム」というキーワードが返ってきた。

大学のほうが自由で楽だということではない。研究の中には、リスクの大きな未踏の分野であり、かつ、成功した場合の社会へのインパクトが大きいものがある。「そうした研究に自ら挑戦できる自由度」だと水田はいう。日英を股にかけた水田のチャレンジは、いよいよ真の国際研究連携を実践する段階に入った。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。

	
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