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精神科医
東京大学 医学部
日本精神分析学会 認定精神療法医 川崎幸病院 精神科顧問
和田 秀樹 (わだ ひでき)氏

2008年04月東進タイムズ掲載

精神科医の仕事で養った知識や体験が新たなフィールドへ導き、 より豊かな自分へと成長させてくれる

適切な診断には正しい知識と冷静さが必要

 医師はそれぞれの専門により、内科、外科、耳鼻咽喉科、眼科、小児科、産婦人科などに分類されます。そのなかで精神科医は「心」という目に見えないものを対象とするせいか、一般的な医師とは異なるイメージを抱かれることもあります。精神科の仕事といえば、真っ先にカウンセリングを浮かべる人も多いかもしれませんが、精神疾病の治療法は大きく分けて生物学的療法と精神療法の二つに分けられます。

 もちろん患者さんの話に耳を傾けることは、「心の病」を治療する際の基本です。しかし、うつ病や不安症、恐怖症、自殺願望といった症状の重い病気はカウンセリングだけでの回復は難しく、生物学的な療法として薬の投与や電気ショック療法などを行い、生物学的観点からの治療も必要なのです。精神科医も医学的知識や経験を土台にして治療に当たるという点はほかの科の医師と同じです。

 治療の現場では「人間が持つ力の偉大さ」に驚かされる場面が多々あります。家庭状況や経済状況に問題を抱え、「これでは精神を患ってしまうのも当たり前」と思われてしまうような患者さんが、治療を施す過程で次第に回復して、日常を逞しく生きていく姿は無条件に素晴らしいものです。「“生きる”とは、それだけで大変価値あることなのだ」としみじみ思います。

 精神分析の研修目的でアメリカに留学したときは、カール・メニンガー精神医学校で私自身も精神分析を受けました。治療を受ける患者を体験し、患者の気持ちを頭だけでなく、身をもって理解することができました。例えば催眠療法では、治療法に対する恐れや抵抗を軽減するために、患者さんに催眠状態の仕組みを詳細に説明します。「催眠にかかる人のほうが、かからない人よりも神経のコントロールが上手い」というプラスのイメージを与えることで、催眠治療をスムーズに進められるのです。

 そもそも私が精神科医の道に進んだのは、「人間を知りたい」という興味からでした。今でも忘れることができませんが、医者になって間もなく、自分の担当した患者さんが死を選択してしまう最悪の状況を体験しました。ベストな治療法で臨んでいたはずですが、「もっと良い治療法を選択できたのではないか」「患者さんの心の変化に気づかなかったことが相手を追い詰めてしまったのではないか」と、立ち直れないほどのショックを受けました。心の病の治療法に“決して間違いのない”治療法などありません。しかし、目の前の救えるはずの命を救えなくては、医師の存在価値はないに等しいのです。「もう二度と患者さんに死を選ばせない」という確固たる決意のもと、そこから再出発しました。

 現在日本では年に約3万3000人の自殺者が出ています。そのうち8割がうつ病を患い、5000~6000人が精神科の診察を受けていたというデータがあります。自分の取り組んでいることは患者さんの命を左右するのだという自覚と使命感は、この仕事に臨むときに最も大事なことだと思います。そして、「人間が好き」であることが大前提です。過酷な境遇にある患者さんの話をしっかり受け止めるとともに、患者さんと一定の距離を保って観察できる冷静さが求められます。

仕事とは、単なる生活の手段ではない

 私は精神科医の仕事のほかに、受験や心理学に関する著書を年に約40冊は出版し、講演会活動やテレビ番組出演、さらに人材教育や、学校のプロデュースにも携わっています。「どれが本職ですか?」ときかれることもありますが、自分の中ではすべて「学んだことを使える知識にする」という一貫性のうえに成り立っています。

 というのも、私は仕事を単に生活の糧を得る手段とは思っていないのです。「自分を成長させる場」だと考えています。ですから一つの肩書きや職業にこだわらず、精神科医の仕事で得た知識や体験を活かせるフィールドがあれば、そこで常に新しい自分の可能性を試してみたいと思うのです。

 例えば2002年に出版した『受験勉強は子どもを救う』(河出書房新社)という著書は、アメリカ留学したときに勉強したことをベースにして書きました。アメリカでは一時期、「思春期に精神的混乱を迎えたほうが、その後のメンタルヘルスに良い」という理論に基づき、自由化教育を押し進めました。しかしそれが大失敗に終わり、今日の若者の悲惨な状況や堕落につながっています。またシカゴ大学精神科のダニエル・オファー教授が2万人の子どもにアンケート調査を実施したところ、実は思春期に混乱する子どもはわずか5分の1であり、彼らのほうが将来のメンタルヘルスが悪いという結果が明らかになりました。

 今でこそ日本の「ゆとり教育」の問題点が各方面から指摘されていますが、私は以前から「誤った考えによる日本の自由教育」に警告を発信してきました。また、国の高齢者問題への対応にも危機感を抱いています。私は高齢者専門の総合病院に勤務していた体験から、高齢者の心と体が密接にリンクしていることを踏まえ、総合的見地から治療を施さなければならないということを実感しています。しかし今の日本は、老年専門医や高齢者向けの精神科医があまりに少ないのが現状です。私が高齢者問題を語ることで、関心を持つ人が少しでも増え、施設や医師不足の改善につながることを願っています。

格差社会への危機感から生まれた映画

 「仕事は自分の可能性を追求し、成長させる場である」というのが私の信条です。そして、また新たに映画というフィールドに挑戦することができました。

 実は「映画をつくってみたい」というのは高校生の頃からの私の夢でもあります。高2のときに藤田敏八監督の『赤い鳥逃げた?』という映画に出合ったのがきっかけでした。当時の私は灘高校に進学したものの、周囲のレベルの高さに圧倒され、勉強する気になれず毎日をやり過ごしていました。原田芳雄さん演じる主人公は「29歳の老人」と自分を表現していて、当時の私の心情とぴったり重なったのです。

 大学在学中、一度だけ自主映画の制作を試みましたが、数百万の借金だけが残るという痛い経験もしました。しかし、社会に出て様々な人間を見てきた今なら、かつてとは違う映画が撮れると思ったのです。

 今回の映画は『受験のシンデレラ』というタイトルで、高校を中退した少女が余命僅かのカリスマ塾講師に出会い、東大受験を目指し、合格するまでを描いています。格差社会が拡大し、教育も二極化するなか、「勉強しても報われない」と努力することを放棄する若者が増えています。しかし勉強ができないのは、「頭が悪いから」ではなく「勉強のやり方を知らない」だけなのです。

 将来を諦める若者が増えることは、まさに日本の社会の未来を諦めるということを意味します。そのような世の中の流れに危機感を抱き、社会的メッセージを込めて制作しました。

 私は日本に三つしかない老人専門の総合病院に勤務し、さまざまな人生をみとってきました。そしてそのたびに「一度きりしかない人生を、後悔のないように力いっぱい生きよう!」という思いを強めてきました。これからも自分の専門分野をさらに極める一方で、そこから派生していくさまざまな分野にも挑戦し、悔いのない人生を歩んでいきたいと思っています。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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