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大学教授
埼玉大学 教養学部
早稲田大学 公共政策研究所 教授
高橋 喜幸 (たかはし よしゆき)氏

2008年06月東進タイムズ掲載

大学の研究を実践的に活かすプロジェクトを立ち上げて、 社会と大学のパイプ役を担いたい

無から有を創り出す、プロジェクトのマネジメント

 高校生の皆さんの中には、“大学教授”というと大学で講義を行い、ひたすら学問研究に取り組む、というイメージを抱いている人が多いと思います。しかし私の場合はそのどちらでもなく、活動内容を一言で表すと「大学の知識・知見を実社会に活かす」ということでしょうか。

 大学は教育機関であると同時に、研究機関でもあります。しかしこれまで人文・社会科学の分野では、その研究成果が社会で十分に活用されていたとは言えません。大学運営のための収入は学費関係と国からの補助が大半でした。しかし、少子化で将来の大学生の数が少なくなるなど時代の変化に対応するために、第三の道を探る必要が出てきました。それが外部資金の導入ということです。大学の研究を具体的に産業活動に活かすため、さまざまなプロジェクトを立ち上げ、軌道に乗せるプロジェクト・マネジメントが、現在の私の仕事です。

 例えば、2年前に設立したインド経済研究所は、日本とインドの経済関係強化を目的に設立されました。活動内容としてはインドの政治・経済の調査だけでなく、それぞれのニーズに応じて日本とインドの企業を個別に関係づけていくことも含まれます。

 プロジェクト・マネジメントとして求められる私の役割は、いわば「無」から「有」を生み出すこと。実際、この研究所も“「やろうか」という一言”が発端です。実現に至るプロセスは失敗と成功、試行錯誤の連続です。手探りで、航路図のない仕事なので決して楽ではありませんが、正解のない世界に自分で答えを見つけていくことは、とてもエキサイティングでやりがいがあります。

新しい地域活性化の秘策“フードジャパンネットワーク”

 学生時代から、「将来は人の役に立つ仕事をしたい」と考えていました。けれど、何か具体的な職業を目指していたわけではなく、現在の仕事に辿り着いたのはその時々に為すべきことに正面から向き合い、取り組んできた結果だと思っています。

 中でも土台となっているのは、シンクタンクで培った体験ですね。各分野をリードする大学教授や、東大・一橋大・慶應大などの大学院生でチームを作り、高齢化・環境・労働・土地など、さまざまな政策関係の研究プロジェクトを立ち上げ、運営していました。そこでは、大学での研究成果を活かした問題発見法、仮説の立て方、データ収集・分析、対外的組織との交渉方法、人の動かし方などで、プロジェクトを運営・管理するうえで、ひととおりのことを体験することができました。その後、慶應義塾大学に移りましたが、そこで当時、改革派知事と呼ばれた方々を中心に地方から国を変えて行こうという“地方分権研究会”の立ち上げ、運営に深く関与しました。研究会全体の運営に加えて、教育・福祉・医療・公共事業・電子政府や情報化など、多岐にわたる分野のプロジェクトに携わったことがプロジェクト・マネジメントとして印象に残っている仕事です。

 具体的には、国の共通テストに先駆けて複数の県で統一学力テストを実施したり、ガンの手術の成功率の公表などを含めた県立病院の自己評価システムを作ったりしました。いずれも、提言するだけでなく実施することが重要で、かつその結果を分析して、次の改革に結び付けていく仕組みになっていなければなりません。こうしたことに大学の力を活かすことができます。

 現在、最も力を入れているのが“フードジャパンネットワーク”というプロジェクトで、「食」を通じて地方の活性化を推進する新しい試みです。全国農業協同組合連合会や富士通株式会社などの協力を得て、2007年秋にスタートしました。

 従来の地方活性化事業といえば、工場誘致などが主流でしたが、これからの時代は発想を転換し、環境への配慮も必要です。このプロジェクトの発想の核にあるのは、フランスの『ミシュランガイド』です。『ミシュランガイド』というと三ツ星レストランと思いがちですが、もともとは、タイヤメーカーであるミシュラン社が一役買っているのです。このミシュラン本来の精神を取り入れて、各地方にその土地で生産される食材を使ったレストランをつくり、料理・食材や料理人と生産者が一緒になった取り組みについてマスコミやホームページで紹介することで、都会から地方へ流れる人の動きを生み出そうというものです。レストランを核として、地方と都市、料理人と農業・漁業の食材提供者との架け橋となるこの活動が成功すれば、地方が誇りを持ち、地元経済の活性化や雇用増加に貢献できるでしょう。この夏にも第一号のレストランが開店する予定です。

論理と発想とは異なる発想では「飛躍」こそが創造の源

 現在、大学では講義を担当していませんが、課外の「自主ゼミ」形式で月に1コマですが4時間ほど、早稲田大、慶應大、上智大などの学生を相手に、「考えることを学ぶ、学ぶことを考える」をスローガンに掲げ、大学での学び方を教えています。

 高校までの学びと大学のそれとは全く異なるものです。大学に入るまでは「存在している正しい答えに、いかに効率よく辿り着くか」が問われますが、大学に入ってからは「正解のない問題に、自分なりの答えを出す」ことが求められます。どちらも必要な能力です。

 先日、自主ゼミで学生にこんな課題を出しました。「日本の歴史を三つに区切りなさい」。縄文時代から現在に続く歴史を三つに分けるというのは、実は大変な問題です。もちろん歴史学的正解があるわけではありません。では、なぜそんなことを考えさせるのかといえば、「歴史をどう見るか」という物差し、別の言葉でいうと自分自身の世界観について考えさせたいからなんです。これは、未知なるステージを切り拓いていくときに羅針盤になるものです。

 インド経済研究所所長で早稲田大学教授の榊原英資さん※とは長い付き合いになりますが、私にとってその発想に学ぶところが多い「仕事の師」でもあります。榊原さんの思考の特徴は「飛躍」にあります。数年前にインドに着眼した際も、また今年の年明けに開催し、多くの東進生も参加してくれた「子と親のための明日のリーダー塾」を開催する際に「親子で一緒に参加できるイベントを」と言い出したときも、最初は非常に突飛に感じました。

 飛躍した発想は一見とんでもない思いつきに見えます。しかし、問いと答えの距離があまりにも遠いのでつながりが見えず、「なぜか」という理由をすぐに説明することができない。往々にして当人自身でさえも、です。こうしたときに本人は、「動物的勘」と言います。

 私の学生時代に比べて、学部名に「政策」がつくところが多くなってきました。そこでは問題解決がキーワードになっていますが、私は問題の発見、問題に気づくことの方が重要だと考えています。問題の解決策は、何がどのように問題であるのかという「問題の立て方」によって、ほとんど方向性が決まると考えるからです。問題の立て方を誤ると、自ずから解決策も間違えます。

 ではどうやって問題を発見する術を修得したらよいのか。まず問題を自分自身で立ててみること。おそらく最初はうまく行きません。正解のない問題に向き合い、自分なりの答えを出す体験を重ねることで徐々に磨かれると考えています。そしてその先にある飛躍の発想こそが新しい時代を創造する鍵になると思うのです。

※経済学者。1941年生まれ。東京大学経済学部卒。旧大蔵省入省。退官後、慶應義塾大学教授を経て、早稲田大学教授、インド経済研究所所長に就任。著書多数。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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