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大学教授
東京大学 工学部 航空宇宙工学科
東京大学  数物例系宇宙研究機構 特任准教授
吉田 直紀 (よしだ なおき)氏

2010年10月東進タイムズ掲載

7年の歳月を費やして解明した"宇宙で最初に生まれた星"

コンピューターシミュレーションで解き明かす"ファーストスター"とは?

 ビッグバンで始まったとされる宇宙の年齢は、現時点でおよそ137億歳と考えられている。一方、日本のすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡などを用いて、現在では約130億光年先の宇宙の姿までを観測できるまでになった。つまり、あと数億光年先まで見通すことができれば、宇宙の始まりに到達することも夢ではないのだ。

 しかし、宇宙の歴史の多くは、いまだ謎に包まれている。とりわけ、宇宙の誕生から最初の天体が生まれるまでの過程や時期は、今のところ、観測されるまでには至っていない。

 光り輝く天体が存在しなかった宇宙の初期状態、いわゆる「暗黒時代」は、宇宙の誕生から数億年の間続いたと考えられている。そのどこかの時点で最初の天体は生まれているはずなのだが、残念ながら、現在の望遠鏡の技術では、ぎりぎりでその地点まで届かないのである。

 そこでコンピューター上に宇宙が生まれたときと同じ状況を再現し、〝最初の星=ファーストスター.の誕生プロセスを理論的に解明した研究者がいる。その人物こそが、東京大学数物連携宇宙研究機構 特任准教授の吉田直紀だ。

 「天文学や宇宙物理学の分野でコンピューターが使われるようになったのは1970年代のことで、意外に古いんです。星や銀河というものは、実際に手に取って観察したり、実験したりすることができません。ですから、いろいろな物理法則に基づいて、計算で確かめるということを繰り返してきたわけです」

 宇宙の構造を再現するには、「宇宙論的N体シミュレーション」という方法が使用される。大まかに説明すると、宇宙に散りばめたN個の粒子に働く重力を計算し、それぞれの粒子がどのように離散、集合していくのかをモニター上で観察していくのである。

 ただし、粒子の数が増えるほど、計算の回数も膨大になる。また、微視的な粒子がどのようにぶつかり合うのか、あるいは、そこからどうやって光を放つようになるのかといったことを知るためには、かなり難解な計算を要することとなる。そのために、何台ものスーパーコンピューターが必要となってくるのだ。

 研究の結果、宇宙で最初に生まれた星はとても大きく、太陽の数十倍から数百倍もの質量を持っていたであろうことが判明した。これらの星は、一生を終える際に「超新星爆発」と呼ばれる大爆発を起こす。

 「今、この爆発を望遠鏡で発見しようとしているところです。それが実現するのは、おそらく10年か20年後。爆発が見つかれば、私たちの予測が正しかったということがわかるわけです」

世界最大規模のスーパーコンピューターを駆使し、誰も挑戦していない謎に挑む

 子どものころの吉田は、典型的な「天文少年」だった。はじめは、本の中の惑星や星雲の美しい写真に魅了された。小学校の高学年になると、精度の高い望遠鏡を父親が買ってくれた。晴れた日の夜には必ず、その望遠鏡を自宅のベランダに出して、星空を眺めた。目の前に輝く星が、実は、光の速さで何万年もかかる場所にある。その距離のあまりの莫大さに圧倒された。当時、つづっていた観測記録は、今も大切に保管してある。

 「小学生にしては、けっこう生意気なことを書いてるんですよね」と吉田は笑う。

 だがそれほど夢中になった星空への興味は、高校進学後に急速に冷めてしまう。東大工学部に入学してからも「宇宙のことを職業にすることは、あまり考えていなかった」というから意外だ。

 そんな吉田に転機が訪れたのは、大学院時代のスウェーデン留学後のことである。日本の大学院に戻るか、一般企業に就職するか、あるいはこのままスウェーデンの大学に留まり、博士課程へ進むべきか。改めて自分自身に問い直して導き出された答えが、宇宙物理学者への道だった。

 「おそらく幼いころに抱いていた興味が、まだ残っていたんでしょうね」

 天文学へと帰ってきた吉田は、スウェーデンからドイツへと研究の場を移した。そこでいきなり任されたのが、「ハッブルボリュームシミュレーション」と名づけられた、当時、世界最大規模のコンピューターシミュレーションだった。扱う粒子の数は10億個。それらが、どのようにして銀河団を形成し、時間進化を遂げていくのかを精密に決定するという難題である。その作業は、研究施設のスーパーコンピューターをすべて占有してしまうほどの計算を必要とするものだった。もちろん、計算を間違えてしまうとシミュレーションはストップしてしまう。言葉もうまく通じない中では、自力で問題を解決していくしかない。多くの困難の末に導き出された成果は一般にも公開され、多くの研究者たちに貢献することとなった。

 そして2001年。アメリカのハーバード・スミソニアン天体物理学センターへ渡った吉田は、いよいよ"最初の星=ファーストスター"誕生のプロセスを追い求める。しかし意外なことに、当時の研究者の間では、それほど注目されてはいなかったのだという。

 「今でこそ130億光年先の銀河を観測することが可能になりましたが、研究を始めた当初はそんなに長い距離を観測できるようになるとは考えられていませんでした。どちらかというと観測可能な範囲を研究するというのが主流でしたので、宇宙に最初に生まれた星を考えることは、さほど重要視されていなかったんです」

 宇宙に最初に生まれた星を探す旅は、吉田のみならず、天文学全体においても新たな挑戦だったのである。

「失敗しても明日の夜空は変わらない」 研究成果を導いたのは楽観性と使命感

 新しい試みだっただけに、7年に及ぶ研究の間、「何もかもがうまくいかなかった」と吉田は振り返る。それでも挫折することがなかったのは、研究者としての「楽観性」と「使命感」を持ち合わせていたからだ。

 研究の現場は、国際レベルでの激しい競争の場でもある。世界のライバルたちよりも早く成果を上げなければ、自分の業績として認めてもらえない。

 「そのためには、ほかの人と同じようなことを、同じようなやり方でやってもどうしようもない。新しい視点や方法を身につけなければなりません」

 しかし、研究とは常に試行錯誤の連続である。だからこそ、簡単にはあきらめない「楽観性」が必要となるのだ。

 「最初からできないと思ったら何もできません。失敗しても楽天的に考えて、次の可能性を探ればいい。とくに宇宙は、わからないことだらけ。うまくいかなくても、明日の夜空が変わるわけじゃないんです」

 その一方で吉田は、自身が解明した「宇宙の始まりの謎」が間違っていてもかまわないと言い切る。それはあくまで、現在の自然科学を使って導き出された答えであるからだ。

 「宇宙は広くて豊かなものです。宇宙で起きているさまざまな現象は、人間の想像をはるかに超えています。それを知っていくことこそが、楽しいんです」

 宇宙にはまだ多くの謎が残されている。とりわけ「宇宙の黒幕」と称される「暗黒物質(ダークマター)」の正体は、依然として明らかになっていない。我々が知っている水素や炭素などの元素は、宇宙全体のわずか4%に過ぎず、残りの96%は正体不明のものであるのだ。そして「暗黒物質」の解明は、吉田の今後の研究課題でもある。

 「ただし、私自身の一番の興味は、美しい天体がどうやって生まれてきたかという点にあります。地球誕生から生命、あるいは人類が生まれるまでの長いストーリーを完成させたい。天文学は何千年にもわたって継承され、受け継がれてきたもの。その一部分にでも、自分が貢献することができたらいいと思っています」

(文中敬称略)

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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