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コピーライター
東京大学 農学部
株式会社 電通  第2クリエーティブ局 コピーライター
福井 秀明 (ふくい ひであき)氏

2010年11月東進タイムズ掲載

人の心を動かす“言葉”を紡ぎ企業と社会を結ぶ架け橋になる

200ものアイデアから生まれたコピー「伸びない人は、いない。」

 体育館に集められた262名の高校生たち。彼らに投げかけられる「今度のテストは、1、2、3年生が同じ問題を解くことになります」というアナウンス。いっせいにざわめく体育館。驚きや戸惑い、決意といったさまざまな表情を見せる高校生たちの映像に重ねられる「全国340万人の高校生へ」という文字。これは、東進が今年9月に実施した「全国統一高校生テスト」のテレビCMのひとコマだ。このCMのコピーを手掛けたのが、電通でコピーライターとして活躍する福井秀明である。

 「キャッチフレーズを考えるのがコピーライターの仕事だと思っている人も多いかもしれません。でも実際は、テレビCMのナレーションや新聞広告のボディコピー(キャッチフレーズとは別に書かれている長めの文章)なども考えます。つまり、広告に入るすべての文字要素に関わるのがコピーライターの仕事なんです」

 一行のコピー、または300文字程度の文章などを膨大な時間と手間をかけて練り上げるのがプロたる所以である。例えば、「伸びない人は、いない。」というコピーがある。2007年にオンエアされた東進のCMで使われたものだ。このコピーを考える際には、200ほどのアイデアを持ち寄って試行錯誤を繰り返したのだという。

 福井のこだわりによって生み出された言葉は、企業や商品の意思を集約したものでもある。冒頭の「全国340万人の高校生へ」というコピーもまた、ぎりぎりまで粘りに粘った末に生み出されたものなのだ。

手にした栄光が思わぬ落とし穴に 燃え尽き症候群から救ってくれたキーワード

 現在に至るまで、常に第一線で活躍し続けている福井だが、苦悩の時期もあった。

 転機が訪れたのは、コピーライターになって4年が過ぎた頃だ。福井の手掛けた広告が、東京コピーライターズクラブ主催のTCC賞グランプリを獲得したのである。澤本嘉光※などのといった日本を代表するコピーライターを数多く輩出してきた同賞は、多くのコピーライターにとっての憧れであり、目標とするところでもある。その栄誉を、福井はわずか数年のキャリアで手にしてしまったのだ。しかしそこには、思わぬ落とし穴が待ち受けていた。

 「一生に一度取れればいいと思っていた賞を、あまりにも早く受賞してしまった。そのことで、目標を見失ってしまったんです」

 大きな賞の獲得は、もちろん仕事への自信につながる。社内外での評価も高まり、より大きな仕事を任されるようになったのも事実だ。しかし福井の場合、それから数年間、”燃え尽き症候群”に取りつかれることとなってしまう。そうした中で改めて、福井は自分自身と向き合った。「自分はなぜ、コピーライターという仕事をしているのか?」「コピーライターとは何をする仕事なのか?」自問自答の末に導き出された手がかりは、”貢献”というキーワードだった。

 「ある商品や企業が、世の中に貢献できるポイントはどこなのか。世の中から必要とされる存在になるには、どんなメッセージを発信すべきかを考えるのがコピーライターの仕事。その結果として、私自身も社会に貢献できることに気がついたんです」

 若い頃の福井は、大きな賞を取ることしか考えていなかった。いわば、自分のことしか頭になかった。

 「自分のことを考えるのは大事。でも、それだけでは人生はつまらない。そう気づかせてくれたコピーライターという職業に、感謝しています」

 他者にまで目を向けることによって、初めて人間は社会との距離感をつかみ、自分自身の立ち位置を確認することができる。新たな目標に向かって、福井は再び走り始めた。

※  澤本嘉光……「ホワイト家」などソフトバンクの一連の広告を制作。

世の役に立つメッセージとは?”ことばの意味”を追究して見出した答え

 そんな福井に、これまで手掛けてきた中で、東進以外で最も印象に残った仕事を訊いてみると、2008年の『広辞苑』(岩波書店)大改訂のキャンペーンを挙げた。

 メインコピーは、「ことばには、意味がある。」

 『広辞苑』の持つブランドイメージを、じつに端的に表現したコピーである。新聞広告や駅貼りのポスターには、手塚治虫、吉田美和、黒柳徹子、椎名林檎といった錚々たる顔ぶれに重ねて、「夢」「愛」「命」「私」といった言葉がレイアウトされている。実はこの広告の制作過程には、興味深いエピソードがある。

 「先に、取り上げたい言葉を決めたんです。それから、その言葉に合うイメージの人を探していきました」

 福井たちは、辞書というものの存在意義を徹底的に考え抜いた。「夢」や「愛」といった、私たちが普段なにげなく使っている言葉でさえ、さまざまな意味を持っている。お互いが言葉の意味を取り違えてしまっていたら、コミュニケーションは成立せず、争いにさえなりかねない。そこにこそ、辞書の存在意義があるのではないか。だからこそ福井は、なるべく普通の、普遍的な言葉を選んだ。

 「”ことばには、意味がある。”って、言われてみればすごく当たり前のことです。でも改めて、その意味をちょっと気にしてみようかなという人が増えると、もしかしたら世の中は少し平和になるんじゃないか。『広辞苑』という商品の良さはもちろん、少しでも世の中の役に立つメッセージを発信できたかもしれないという意味では、とてもやりがいのある仕事でしたね」

 結果的にこのキャンペーンは、予約だけで30万部を超えるという大きな反響を呼んだ。『広辞苑』のPRだけでなく、人と言葉、人と人との関係性までをも考えさせる強いメッセージを放つコピーであったことが、成功の大きな要因だった。

コピーライターに必要な資質とは

 コピーライターとして11年のキャリアを持つ福井だが、意外にも文章を書くことは最近まで嫌いだったという。コピーを書く力は「訓練」によって培われるものだと言い切る。

 「とくに若い頃は、自分でコピーの良し悪しを判断する力がありません。ですから、たくさん書くしかないんです」

 もちろん、やみくもに書き出せばよいというものではない。コピーライティングとは、単に商品のセールスポイントを強調すればいいという作業ではないのだ。競合商品よりも優れた点を探すことが基本にはあるものの、そこからさらに考えを深めていくことによって、より効果的な言葉を導き出していくのである。

 それだけに「厳しい」と、福井は率直に述べる。しかし「これだ!」というぴったりの言葉を見つけたときの喜びもひとしおだという。

 「これほど気持ちのいいことはないですね。ああ、やっていてよかったと思います」

 コピーライターは、企業の代弁者としての役割を果たす存在である。だがその言葉の中には、当然、自分の考えや想いも反映される。その力を養うには「きちんと生きること」だと福井は言う。

 「怒るべきときは怒り、落ち込むときは落ち込み、人から受けた恩は忘れず、弱っている人がいたら自分にできることはないか考えたり、人としてきちんと生きることが大切」

 そうした経験を通じて、例えば、世の中の流れに違和感を抱く視点や、少数意見にも素直に耳を傾けられる柔軟性が身についてくる。社会に対する自身のスタンスをしっかりと持っていることが、コピーライターに求められる資質なのだ。

 「高校生だったら、なぜ自分は勉強しなきゃいけないんだろう? ということは考えてほしいと思います。自分なりの答えを導き出せれば、受験勉強もだいぶ楽しくなると思いますよ」

(文中敬称略)

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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