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旅行会社
横浜国立大学 経済学部
株式会社 JTBコーポレートソリューションズ マーケティング&HR事業部門 執行役員 部門長
上田 泰志 (うえだ やすし)氏

2012年08月東進タイムズ掲載

おもてなしの精神を持って 記憶に残る感動の体験を提案する!

安心安全は大前提 修学旅行を陰で支える教育旅行のプロフェッショナル

 遠足や社会科見学、そして修学旅行は、学校行事の大きな楽しみの一つ。かけがえのない思い出を作る絶好の機会だ。学生たちが気持ちよく、安心して旅行を楽しめるように、縁の下の力持ちとして支えてくれるのが旅行会社の役割である。

 「学校行事ですから、全員が安全に帰ってくることは絶対条件です。さらに、仲間意識を高めるとか、自然を大事にする気持ちになるといった目的を達成しなければ学校から評価してもらえません。単に楽しければいいというわけではないのです」

 そう語るのは、株式会社JTBコーポレートソリューションズの上田泰志だ。現在は、JTBの持つノウハウを活かした企業向け研修プログラムや人材育成サービスの開発・提供を手掛けている上田だが、JTB入社当初に配属されたのは「教育旅行」と呼ばれる学校行事を専門に扱う部署。上田はそこで12年間、営業マンとして活躍した「教育旅行」のプロフェッショナルだ。

 もともと上田は、学生時代からユースホステルの活動に積極的に取り組んできた。ユースホステルと聞くと、安価な宿泊施設というイメージがあるかもしれないが、活動の指針として「青少年の健全育成」を掲げている。子どもたちに自然に触れる機会を提供したり、清掃ボランティアなども活動の一環なのだ。

 とりわけ上田は、旅行者や子どもたちの喜ぶ顔を見るのが好きだった。ただ子どもたちを野外に連れて行くだけではなく、「どうすればもっと楽しんでもらえるか?」を常に自問自答し、実行した。

 やがて「おもしろい企画を考えて、お客様が喜んでくれる仕事がしたい」と考えた上田が日本交通公社(現JTB)の面接を受けたのは、自然な流れといえた。もちろん希望は「教育旅行」だ。

 「最終面接で学校の担当をしたいと答えたら、珍しい人だねと言われましたね(笑)」

 時はバブル経済絶頂期。空前の海外旅行ブームの中、教育旅行が地味に見えたのも致し方ない時代だった。

初成果は社会科見学勝因は教科書にあった!?

 晴れて希望の職種に就いた上田だが、もちろん初めは戸惑いの連続だった。一般企業と比べて、学校は独特の世界。そもそも短い休憩時間や授業のないときでなければ、先生と話もできない。アポイントを取るには、先生たちの空き時間をしっかりと把握しておかなければならないのだ。だがもちろん、他社の営業マンも考えることは同じ。だから、いかに先を越されないようにするかということにも頭を使う。

 「また、限られた時間の中で納得してもらわなければなりません。そのためには、必要なことをいかにコンパクトに話せばよいかということも思案しましたね」

 「対話力」が必要とされるのは学校回りの場面だけではない。添乗の際にも重要だ。旅行者の前で頼りない挨拶をしては、不安に思われてしまう。それだけではなく、重要事項がきちんと伝わらないと旅の安全を脅かすことにもなりかねない。

 「人前で話をするときには、こちらに信頼感を持ってもらわなければなりません。声の出し方やスピードなど、よく先輩から注意を受けました」

 そんな上田が初めて自分ひとりで獲得した仕事は、小学校の社会科見学だった。予定は、国会議事堂などを巡る東京都内の見学。そこで上田は、ある行動に出る。その学校が使っている教科書を調べたのだ。

 「教科書に載っている順番で見学していったほうが、生徒もわかりやすいだろうと考えたのです」

 上田の提案はもしかしたら、価格的には他社よりも割高だったかもしれない。だがそのプランを見た先生の言葉が、上田を勇気づけた。

 「よく勉強しているね」旅行会社の営業マンとして、上田が独り立ちした瞬間だった。

 もちろん当日は、上田自身が添乗した。児童たちの雰囲気に注意を払いながら、バスガイドに「国会議事堂には床屋と美容室がある」といった楽しい裏話を盛り込んでもらうように、リクエストを出したりもした。「子どもたちに笑顔になって帰ってもらいたい」という、学生時代からの変わらぬ思いからだ。

高校生が修学旅行で屋台を引く体験型旅行で感動を呼び込む

 そんな事実上の〝初仕事?から9年あまりが過ぎたころ、上田は新しいチャレンジをスタートさせる。

 「旅を重ねると、だんだん細い路地に入りたくなったり、地元の人しか知らないお店に行きたくなるものです。子どもたちも同じ。ガイドブックに載っている観光地ばかり訪れていたのでは、その土地の表向きしかわかりません。そこで地元の人たちに協力をお願いしながら、学習や交流、思い出ができるようなプログラムを作ろうと考えたのです」

 例えば大阪での「あきんど体験」。高校生向けの修学旅行の企画で、大阪の商店街に自分たちのお店を出すというものだ。空き店舗と屋台が貸し出されることになっていて、学生たちは現地で「何を」「どうやって」販売するのかを事前に考えてくることになっている

 「飾りつけや宣伝も、すべて手作りです。リヤカーを引きながら一所懸命にお客さんを呼び込む。そんな彼らの姿を見て、地元の商店街の方から『いい笑顔だった』とか『すごく頑張っていたよね』と声をかけてもらえる。感動して泣いてしまう子もいるほどです」

 こうした企画力を買われ、気がつけば上田は支店勤務から、新規事業開発部門へと移っていた。一支店で実現させたアイデアを国内外でも提供できるような形にすることが、与えられた使命だ。わずか4名のチームを率いて、上田は世界中を飛び回ることとなる。

 海外となると、異文化体験がテーマとなる。とりわけ料理は、国の文化を象徴しやすい。ところが往々にして、地元の人たちが好んで食べているものはあまり知られていないことが多い。例えば、フルーツバットというコウモリの姿煮は、東南アジアではごちそうだ。肉は臭みがなく美味である。異文化体験の素材としては絶好のメニューだったが、翼を広げた状態で出てくるのが難点だった。

 「さすがに女子生徒は絶対に食べられないだろうという結論になりました。地元への理解を深めてほしいと思う一方で、やりすぎてしまうと逆にマイナス印象を与えてしまいます。そこは難しいところでしたね」

JTBの根幹を成すホスピタリティ おもてなしの精神はどんな業界にも必要

 現在、上田が力を注いでいるのは「ホスピタリティマネジメント事業」である。上田が解釈する「ホスピタリティ」とは「相手に喜んでもらうために自ら進んで行う気持ちと行動」。「おもてなし」「気遣い」「心配り」といった意味合いで使われることの多い言葉だ。

もともと旅行会社は、ホスピタリティを重視する業種である。とりわけJTBには、創業100年という歴史の中で培った知見の集積がある。それを企業研修や人財育成の場で活用してもらうのが「ホスピタリティマネジメント」の狙いだ。

例えば「ザ・リッツ・カールトンホテル」では、チェックイン時にこちらから名前を告げる必要がない。「○○様、ようこそいらっしゃいました」と向こうから先に声をかけてくれるからだ。ドアマンが入り口で受け取った荷物のネームタグに書かれているお客様のお名前を、フロントに無線で連絡する仕組みができあがっているのである

 「そうした仕組みは、ホテル業に限らず別の業種でも活用できるかもしれません。ホスピタリティの高いホテルや旅館で感じた体験を〝じゃあ自分の仕事にはどう活かせるのだろう??と考えてもらえるようなプログラムを作って、企業向けに提供しているわけです」

旅行業界に限らず、ホスピタリティは現在、企業の経営戦略の一翼を担うものとなっている。実際に、携帯電話会社やハウスメーカー、病院などのさまざまな業種で、同社のプログラムが導入されているという。

「ホスピタリティは、家庭の中であったり、学校や地域社会においても重要な役割を果たします。その一方で、残念ながら今、失われつつある考え方でもある。ですから社会のいろいろな場面で、改めて見直してもらえるような活動ができればいいと強く思っています」

 ホスピタリティは、JTBの根幹を成す精神だ。

「それだけにずっと追い求め続けなければいけないと思っています。終わりはありません」

 上田は最後に力強くそう言い切った。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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