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新聞記者
東京大学 法学部
『ウォール・ストリート・ジャーナル』日本版 マネージング・ディレクター
林 良輔 (はやし りょうすけ)氏

2012年06月東進タイムズ掲載

世界との情報格差を解消し ビジネスチャンスを生み出すことで日本社会に貢献したい

米国発・老舗経済紙によるネットメディアの誕生

 2009年12月、アメリカの老舗経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル(以下WSJ)』が日本版のウェブサイトをオープンした。掲載される記事は、アメリカ発の経済ニュースを筆頭に、金融・マーケットの最新情報、企業動向やIT情報、ビジネスコラムなど多岐に渡る。これまで英語でしか読むことのできなかった同紙の記事を日本語で閲覧できるようになったことは、とりわけビジネスパーソンにとって大きな福音となった。

 とはいうものの、海外ニュースであれば、日本の新聞やテレビなどでも目にすることはできる。WSJと日本のメディアとの違いはどこにあるのだろうか?

 「例えば、米国企業の決算情報などを配信する場合、WSJでは数字のみを掲載するのではなく、その数字の裏側にあるものまでを分析します。その背景や理由、あるいは経営者や幹部の発言といった細かな情報にまで踏み込んで記事を書いているわけです」

 このように語るのは、WSJ日本版でマネージング・ディレクターを務める林良輔だ。実は、日本のメディアを通じて配信される海外ニュースはごく一部のものでしかない。しかし、日本で報道されない海外での出来事が、日本経済に何らかの影響を及ぼすことは多い。日本ではほとんど取り上げられないが、海外では大きな話題となっている情報の積み重ねが、グローバル化の進む世の中を生き抜くために重要であると林は説く。

 「これからの時代の競争相手は、同じ日本人だけではなくアメリカや中国のビジネスパーソンです。自分の経済活動に結びつく情報は確実に蓄積しておかないと、彼らとの情報格差が生まれることになってしまいます」

 「格差」が生じると、ビジネスチャンスを逃すだけでなく競争に負ける可能性も出てくる。そのためにも、WSJ日本版では日本のメディアが伝えきれていない情報を独自の切り口で提供することを使命としているのだ。近々東進生も、東進ドットコムを通してWSJ日本版を読めるようになる予定なので、ぜひ読んでみてほしい。

少人数で一致団結して作り上げた『WSJ日本版』

 しかし、日本版の立ち上げは容易ではなかった。アメリカでは120年の伝統を持つものの、日本版の取り組みがスタートしたのは2009年6月。しかも、たった3名のスタッフでのスタートだった。必然的に、林の仕事はシステム構築から人材採用に至るまで多岐に渡った。WSJという歴史あるブランドが味方についているものの、実際はゼロから仕組みを作り上げる「起業」に近い状態だった。何もかも自分たちで考えて、実行していかねばならない。だがその時期が一番おもしろかったと林は振り返る。

 「まるで、高校の文化祭の準備をしているような雰囲気でしたね」

 WSJ日本版は、アメリカ本家の発行元出版社であるダウ・ジョーンズ社と日本の投資会社SBIホールディングスが、それぞれ出資している。それゆえに、アメリカ本社との電話会議は時差があるため深夜に行われることも珍しくない。「それでもみんなで同じ方向を向いて、全員で作りあげるぞという意識を持って仕事に携わっていることに高揚感を覚えました。不思議と、精神的にも体力的にも疲れを感じなかったんです(笑)」

 晴れてウェブサイトがオープンして以来、林は記事編集以外のすべての業務を管轄している。広告営業、購読者獲得、PR、マーケティング、システム構築、経理、法務など、事業のほぼすべてをこなしているというから驚きだ。直属の上司は「株主」と「取締役」。つまり林は、事業の最前線を任されている「経営者」でもある。30代という若さから考えると、日本の新聞社ではおよそ考えられない人事だ。

日米の環境で培った複数の視点から物事を見る習慣

 これまでの道のりを振り返り、林は「常に右往左往してきた」と語る。幼少より海外で暮らし、名門麻布高校から東京大学へ進学したのち、国内最大手の広告代理店・電通へ入社。加えて、アメリカとフランスでの留学経験もある。社会人として申し分のないキャリアを積んできたように見えるだけに、その言葉は意外に思えた。

 「経歴だけ見れば輝かしいと感じられるかもしれません。けれども精神的に引きこもってしまった時期が何度かあります」

 最初の戸惑いは高校生のころに訪れた。親友とのトラブルをきっかけにして、林は「どうして自分は、人と違うのだろう?」という周りとの違和感を抱くようになる。だが、「人と違う」ということは決して悪いことではなく、自然なことなのだとはっきりわかったのはアメリカへ留学した大学時代だった。

 「二つを比較してどちらか一方が正しいというわけではありません。けれど、自分にとって正しいと思えるものはあるはず。それを信じればいいんだ」

 小学校、高校を日本とアメリカ両方の環境で育ったことが、自分の考えの土壌にある。日本とアメリカの価値観の違いを較べるうちに、「物事を複数の視点から見る習慣」がついたのだという。

 80年代後半から2000年代後半にかけて、林は外側から日本という国を見ることができた。80年代といえばバブル経済のピーク。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という言葉が踊る一方で、激しい「ジャパン・バッシング」も生じた。それが一転、「ジャパン・パッシング」に転じたのが90年代後半。日本の時代は過ぎ去り、次は中国だと取り沙汰されるようになった。そして2000年代に入ると、「ジャパン・ディッシング」と称して、日本は公然と世界から無視されるようになる。

 日米どちらの文化もよく知る一方、やはり自分のアイデンティティの根幹は日本にあると自覚した林は、悔しくてたまらなかった。

 「そのうち、日本の社会がどの方向に進めば健全であるといえるのかということを考えるようになったんです」

 やがて林は「日本社会に貢献すること」を目標にして歩み出すことを決意する。

大企業を辞して挑んだ国家公務員一種試験

 林を社会貢献へ向かわせたのには、もうひとつの大きな理由がある。民法学者だった祖父の存在だ。

 「祖父はよく人間は社会によって育てられる。だから社会に恩返しをしなければいけない.と言っていました。思春期に、社会と人との関係を教えてもらったことが、今も影響していると思います」

 だからこそ林は、公務員への道を目指した。社会貢献を視野に入れるのであれば、国の制度設計に携われる公務員になるのが一番実現しやすいと考えたからだ。

 そして電通を退職して2カ月間、必死で勉強に打ち込んだ。だが、結果は不合格。振り返ってみれば、真摯に勉強をしていた人たちに比べて、自分の努力が足りていないことは歴然としていた。それでも自分が進みたいと強く望んでいた「道」が閉ざされてしまったショックは大きかった。夜も眠れないほどに激しく落ち込んだ。しかし得るものもあった。

 「努力できる人こそが、かっこいいということです」

 それまでの林は、あまり頑張った素振りを見せないで、ギリギリで合格することがかっこいいと思い込んでいた。だが公務員一種試験はそれで乗り切れるほど甘くはない。努力している人のほうが、その瞬間は大変かもしれないが密度の濃い時間を過ごしている。「もっと努力しなければいけない」――生来の負けず嫌いも手伝って、林は決意を新たにする。

挫折を受け入れもがき続ければ必ず道はできる

 そして翌年、見事に難関の公務員一種試験を突破した林だったが、世界経済のグローバル化や日本で打ち出される「小さな政府」「規制緩和」といった政策を見るにつけ、もはや一部の公務員の働きによって経済を動かす時代ではないことを感じた。

 そこで林が選んだのは、金融業界への道だった。「冨を生み出すのは、人・資源・資本・技術であり、それらが必要に応じ適材適所に流れること。日本はそれができていない」。民間の投資会社によって、お金が適材適所に流れる仕組みを作るほうが、国が関与するよりも経済発展を促しやすいと考えたのだ。こうして林は「M&Aコンサルティング」---いわゆる「村上ファンド」に入社することになる。

 元通商産業省官僚の村上世彰氏率いる「村上ファンド」は、2006年、村上氏がインサイダー取引の容疑で逮捕・起訴されたことにより解散に追い込まれる。直属の部下として働いていた林は、この事件によってこれまでの自分の価値観を大きく揺さぶられた。

 それまでは世間からどう思われようが、自分なりに経済発展につながり、また清く正しいと思えることをやっていたつもりだった。それがある日突然、社長が逮捕され、一部の社員も検察に呼ばれて事情聴取を受けている。

 信じてきたものが脆くも崩れる体験は苦しかった。しかし、そうした苦境から這いあがるには「もがくしかない」と林は言い切る。

 「挫折を乗り越えるのに、10年かかる人もいるかもしれない。でもそれはかっこ悪いことじゃない。私の場合、もがき続けて、ふと振り返ると後ろに一本の道ができていた気がします。この道は、私が10年前に具体的に想像していた道とは違います。けれども、日本社会の発展への貢献.という大きな道からは外れてはいませんでした。失敗を恐れずに、もがきながら進んでいけば、必ず道は生まれるのだと思います」

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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