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裁判官
京都大学法学部
東京地方裁判所 刑事第6部 裁判官
加藤 雅寛 (かとう まさひろ)氏

2007年03月東進タイムズ掲載

徹底的な真相解明と当事者を思いやる力 とことん事件の本質に近づくことで 公正な判断を下す糸口が見つかる

偏見や先入観を振り払い臨む裁判初日

 高校生の皆さんにとって、裁判という言葉は頻繁に耳にしても、実際には縁遠い存在ではないでしょうか。東京地方裁判所には刑事事件を扱う部が19部、民事事件を扱う部が50部あり、現在私は刑事事件を担当する刑事第6部に所属しています。

 裁判官の仕事は裁判の手続きをどのように進めるのかを考え、証拠を検討し、最終的に判決を言い渡すまでが一連の仕事です。

 例えば、ある強盗事件の場合。警察官が犯人を特定すると、検察官にその旨を報告し、検察官が処罰を必要と判断すると、裁判所に起訴します。その後、裁判官が法廷において、検察官と起訴された人(被告人)や、被告人を弁護する弁護士の言い分をよく確かめて、犯人であるかどうかの判断をします。裁判官は、被告人に対して正しい判決を言い渡して事件を解決し、国民生活の平穏と安全を守る責務を負っています。

 まず担当する事件が決まったら、起訴状を読み込むことから始めます。起訴状とは、被告人の氏名、犯罪の内容、罪名などが書かれた書類です。内容は検察官が数分で読み上げることのできる簡単なもので、誰が(被告人)・いつ・どこで・誰に対して・何をしたか、というようなことが書かれています。

 ここで注意しなければいけないのは“起訴状一本主義”というルール。裁判官は、偏見や先入観を排して法廷に座らなければいけないので、事件について前もって知り得る情報は基本的には起訴状の内容のみなんです。

 なお、広く知られていないことですが、裁判は裁判官一人で担当する「単独事件」と、三人で担当する「合議事件」の二種類があります。単独事件を担当できるのは本来は10年以上の経験を積んだ裁判官のみですが、今は法律の規定により、5年以上の経験を積んだ裁判官も単独事件を担当し得ることになっています。5年未満の経験しかない裁判官は原則として合議事件しか担当できず、私も裁判官になってまだ1年ちょっとですので、合議事件を中心に週4~5回法廷に入っています。

今までのイメージが一変したある裁判官との出会い

 高2の頃までは、漠然とですが宇宙飛行士に憧れていました。方向転換した理由は、ドラマやニュースで観る弁護士や検察官の姿がかっこよく、憧れたからなんです(笑)。ですから、当時は裁判官ではなく、弁護士か検察官のどちらかになりたいと思っていましたね。

 司法試験の勉強を開始したのは、大学3年生のとき。国家試験の中でも難関といわれる試験ですから、勉強量が多く、行き詰まってしまうときもありました。そんなときはよく裁判所に出かけたものです。独特の緊張感が漂うある法廷の傍聴席に座り、弁護士と検察官の血気迫る互いの主張には、時が経つのも忘れて見入ってしまったほどです。その頃は検察官や弁護士の仕事ぶりばかりが気になり、裁判官のことはそれほど意識していませんでした。

 その意識が変わったのは、司法修習生時代に出会った裁判官の存在が大きかったです。法廷以外の場面での裁判官の姿を、初めて目の当たりにしたからかもしれません。法廷に入る準備のために、裁判官室で非常に丁寧に法律文献や判例、証拠を検討している裁判官の姿を見て、裁判官は、法のルールだけに従い、機械的に判決を言い渡しているという誤ったイメージが少しずつ変化していきました。法律を読むだけでは判断しきれないことに丁寧に対応して、一つひとつの裁判に立ち向かっていく、そんな緻密で繊細な仕事に、大きな感銘を受けました。それでいて、冗談も言うし、仕事が終わればお酒を飲みにも行く普通の人。そんなギャップがとても魅力的でした。一方で仕事に関しては厳しく、どんな小さなこともおろそかにしませんでした。

緊張感が背筋を走った無期懲役判決の言い渡し

 裁判官として判決を言い渡すということは、被告人の人生を左右する責任の大きな仕事です。ですから、規模の大小にかかわらず、丹念に証拠を検討し、多くの判例に目を通して、一つひとつの裁判に取り組んでいます。

 裁判には「疑わしきは被告人の利益に」という原則があります。例えば、9割方有罪と思わせるような証拠が揃っていても、間違いなく有罪だという確信が持てないのであれば、無罪を言い渡さなければいけないということです。つまり有罪という判決を下すためには、常識的に考えておかしなところや疑問はないといえる程度まで、証拠が十分に揃っていないといけません。

 私が今まで担当した事件で、強く印象に残っているのは、ある被告人に対して無期懲役の判決を言い渡した事件です。法廷では、被害者・関係者の方が傍聴されている前で、検察官と弁護士のやりとり、証人の言葉を直接聞くわけです。そうすると、起訴状に書かれていた事件内容が、ありありと目の前に立ち上がってくるような、そんな緊張感が背筋を走りました。3人の裁判官で証拠を検討し、過去の判例を読み返してとことん話し合い、最終的に無期懲役という判決にたどりつきました。判決を言い渡すときにいつも感じることですが、被害者や被告人、また彼らの家族の人生に大きな影響を与える仕事だと思うと、正直言って、悩み苦しむこともあります。ですから、裁判官として正しい判決を言い渡すために、丁寧に事件の真相を追い、日々勉強を欠かすことはありません。

「粘り強さ」と「相手を思いやる力」で事件の本質に迫る

 よく「法が人を裁く」と言われますが、ひとつの法律にしてもさまざまな解釈が存在します。それらを踏まえながら、自分で考えて答えを出さなければならない場面に多くぶつかります。

 私自身、「迷ったらまず調べる」を鉄則にしています。事件記録に何度も目を通したり、過去の判例や法の解釈に関する文献を調べることで解決策を見つけられることがあるからです。「粘り強さ」は裁判官の仕事で最も重視される能力の一つだと思います。

 相手の立場を考える「想像力」を培うという意味では、普段の日常生活で周囲の人を思いやる姿勢が大事だと思いますが、私の場合はそれに加えて大学時代に所属していた国際法学研究会での経験が役に立ちました。国際司法裁判所という設定で模擬裁判を行うサークルでしたが、原告、被告、裁判官のそれぞれの立場を体験することができ、それによって視野が広がったと思います。想像力は被告人の動機や行動の背景を把握するのにも必要であり、それなくしては事件の本質に迫ることはできません。

 司法修習生時代に出会った裁判官の丁寧な仕事ぶりは、現在、私の裁判官という責務を支える大きな柱となっています。どんな些細な疑問も見過ごさず、納得いくまで調べ上げ、小さな事実の一つひとつを細部まで検証し、論理的に組み立てていく。それがどんなに気の遠くなるような作業であっても、社会的秩序の維持に貢献するために、事件の本質を掴んで公正な判断を行うことに努めていきたい、そう思っています。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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