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編集者
京都大学 経済学部
日本経済新聞社  編集局 証券部 次長
山川 龍雄 (やまかわ たつお)氏

2010年08月東進タイムズ掲載

現場に足を運び、自分の目で確かめる これこそがジャーナリストの最大の武器

10年後の日本を見据え読者とともに考える「未来面」

 日本を代表する経済紙として絶大な信頼と実績を誇る『日本経済新聞(以下、日経新聞)』。2010年3月にインターネットを介して購読する『日本経済新聞 電子版』を創刊したことも記憶に新しいが、新聞紙面においても新たな試みがスタートしていることを知っているだろうか?

 新紙面の名は「未来面」。日経新聞と読者や企業との相互コミュニケーションによって10年後の日本の将来像を考えていくという企画である。一般に、日経新聞の紙面は、高度な専門知識を有した記者の手による経済情報を中心に構成されている。つまり、他紙に見受けられるような、読者の声を集めたページ――いわゆる「投書欄」というものはこれまで存在しなかった。

 そこで、読者との双方向型の紙面作りを目指して誕生したのがこの「未来面」である。10年後の日本がどのような国になっていれば活力を取り戻すことができるか? そのアイデアを読者から募り、実現可能であるかどうかを記者が取材・検証する。単に読者の声が並んでいるのではなく、読者と記者との二人三脚によって紙面が作り上げられていく点が大きな特徴だ。

 「インターネットの普及が進んで、近年では、コンテンツに対して自分も参加したい、あるいは何か発言したいと考える読者が増えています。一方で、日本は今、世界の中で非常に孤立している。10年後の世界において、なくてはならない存在になっていないと、本当にジャパン・パッシングという状態に陥ってしまいます。では今、何をしなければいけないのか? それを読者や企業の皆さんとの対話を通じて考えていこうというのが未来面です」

 そう語るのは編集局証券部次長の山川龍雄。現在、証券部のデスクワーク、1面の連載企画、未来面と〝3足のわらじ.を履いている。特に未来面はスタートしたばかりのプロジェクトということもあり、仕事の大きな部分を占めるようになった。山川のもとに届いた読者からの提言は、7月現在で1500件を超えており、そのどれもが「とても参考になる」と言う。

 「私たち編集者や記者の周りには、大所高所から見たような専門的な意見が集まりがちです。でも実際には、読者の方々の身近な実体験から出てくるアイデアが、世の中を良くする力を持っていたりするんです」

 その第1弾として先日、「淡路島を経済特区に」という読者の提言を受けた取材が担当編集委員を通じて行われた。実験段階とはいえ、新聞と読者との新しい関係を模索する試金石として「未来面」は今後も注目を集めそうだ。

日系社会100年の歴史に胸打たれたブラジル取材

 現在、日経新聞で証券部のデスクを務める山川だが、それ以前は、関連出版社である日経BP社において、雑誌記者として活躍してきた。『日経ビジネス』誌を中心に、およそ20年に渡って経済界の動きをウォッチしてきたベテランである。そんな山川に、これまでにもっとも思い入れのある仕事を問うと、ニューヨーク支局長時代に手掛けたというブラジルでの取材を挙げた。

 「グァタパラという村を訪れたときのことです」

 ブラジルの日系人社会を理解し、彼らと共存すれば海外に拠点を置く日本企業にとってもプラスになる。そんな構想を抱えての取材だった。だが山川を迎えたのは、思いもよらない”感動的な”体験だった。

 グァタパラは、およそ100年前に日本人移民たちが開拓地として入植した場所である。しかし、当時の劣悪な労働環境のなかで、多くの人びとが命を落としたという悲しい歴史を持っている。

 2004年9月、小泉純一郎首相(当時)がこの村を訪問したことがある。当初はヘリで上空を通過するだけの予定だったが、サッカー場に描かれた「カンゲイ小泉首相」の文字を見て急遽、予定を変更。ヘリを着陸させ、村人たちと挨拶を交わした。その翌日、スピーチの席においてグァタパラに話が及んだ際、小泉首相は涙を流して言葉が出なかったという。グァタパラに入った移民の中には、小泉首相の父・純也氏の故郷である鹿児島県出身の者が多かった。

 そのグァタパラに足を踏み入れた山川は、現地の人びとから温かいもてなしを受けると同時に、日系移民たちの並々ならぬ苦難の道のりを目の当たりにすることとなる。

 「現地では、村の人たちが集まる宴席に同席させてもらったり、入植当時に亡くなった人たちが眠っているお墓にも案内してもらったりしました。そうした交流を通じて、日系社会の100年の歴史が見えてきた。それだけに、書きあげた記事には思い入れが詰まっていますね」

 山川が執筆した記事には、先の小泉首相のエピソードが盛り込まれるとともに、日本に出稼ぎに来ているブラジル日系人の問題も取りあげられた。さまざまな艱難辛苦を経て、ブラジルで頑張っている日系人。その一方で、日本では少なからず偏見の目をもたれる存在となってしまっているブラジル日系人。両国でのコントラストをくっきりと浮かび上がらせた山川の記事は、多くの読者に好評をもって迎えられた。

自らの足で事実を集めたからこそ予見できた住宅バブルの崩壊

 これまで、数々の取材を経験してきた山川に「優秀な記者の条件」を聞いてみると、「自分の言葉を持っていること」という答えが返ってきた。

 「自分で見てきて、自分で感じて咀嚼して、自分の言葉で表現ができる。最近は何か調べようと思ったら、すぐにネットで検索できてしまう。でも記者がそれに負けてはダメですよね」

 そう言いながら山川は、自身のアメリカでの体験を語ってくれた。数年前に、アメリカで住宅価格がどんどん高騰していったころの話だ。このままではいずれ住宅バブルが弾けてしまうのではないかと考えた山川は支局のスタッフライターと手分けして、当時、住宅投資が盛んだったカリフォルニアやマイアミ、デトロイトへと足を運び、現地調査を行った。すると、このひと月の間に、売れる物件と売れない物件が出てきているという。それまでは、たいていの物件に売り手がついていたにもかかわらず、ロケーションのよくない立地では、明らかに空室が目立つようになっていた。

 もうひとつ、山川が注目したのは住宅ローンだった。アメリカの場合、住宅ローンを設定する際に、金融機関との間にブローカーと呼ばれる仲介業者が入る。彼らや不動産業者、あるいはローンを組んだ人々への取材を重ねるうちに、山川はその異常性に気がつく。多くの人が借入金の金利だけを支払うローンを組んでいたり、なかには金利すら返済しなかったりするような驚くべきローン設計をしている人もいたのである。しかも金融機関は、低所得者にもどんどん融資を行っている。そして金融機関の債権は小口化され、海の向こうの日本を含む投資家に転売されている。

 「そうした事実が経済指標に現われるまでにはタイムラグがあります。ですから現場に行かないと、こうした〝潮目が変わる瞬間.というのは、絶対にわからないんです」

 その後、住宅バブルが弾けてリーマン・ショックにつながり、世界的な大不況に見舞われたのは周知の通りである。山川の予言は、まさに数年の時を経て的中することとなった。自らの足で、ひとつひとつ丹念に事実を集めたからこその成果だ。

 「現場に行って、自分で見てくるというのがジャーナリストの最大の武器」と強調する山川。ネット全盛の時代だからこそ、ジャーナリズムの原点といえるこの言葉の意味は大きい。

※文中敬称略。所属・役職等は取材当時のものです。
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